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第13話 傷心の夜
大広間の隣の部屋では、ディナーの準備がすでに整えられていた。
ガブリエルとラファエルのかつてのご学友のご令息、ご令嬢たちがダンスを終えて部屋に入ってくる。
クラッシックが流れる部屋の中は、穏やかな空気に包まれ、各自がテーブルに着くと食事が始まった。
私は、部屋の隅でその様子を観察しながら他のメイドたちと共に立っていた。
知らず知らず、ガブリエルを見てしまう自分がいる。
相変わらずミシェルはガブリエルの横におり、二人は話を楽しんでいるようだ。
そんな二人を見てまた胸が痛み出した私は、正面を向いて早くこの時間が過ぎて欲しいと考えていた__。
食後のデザートが運ばれてくる。
ガブリエルおすすめの『紅茶のシフォンケーキ』の登場に、ミシェルの感嘆の声が私の耳にも届いた。
「これがガブリエル様おすすめの『紅茶のシフォンケーキ』ね! 美味しい……! 学校に通っていた時から食べてみたかったの。夢が叶って嬉しいわ!」
「俺がこだわり抜いて考えたレシピで作ってあるから美味いに決まってるだろ? あ、レシピは教えないからな」
「うふふ。でも、ここにお嫁に来たら毎日食べられるわよね?」
「は? お前、何言ってるんだ?」
ガブリエルがミシェルに尋ねると、周りにいたご令息やご令嬢たちが二人をはやし立てた。
「お二人は学生時代からお付き合いをされていると聞いています。ご結婚が楽しみです」
「いよいよご結婚ですか? きっと素晴らしい結婚式になるのでしょうね!」
たくさんの祝福の声に囲まれる、ガブリエルとミシェル。
そんな二人の様子が、私の胸の痛みをますます酷くさせていく。
私と和の思い出の『紅茶のシフォンケーキ』はミシェルに食べて欲しくなかった。
(もうここにいるのが耐えられない……)
私は、隣に立っている他のメイドに小声で言った。
「ごめんなさい。少し気分が悪くて……。少し休ませてもらってもいい?」
快くその場を引き受けてくれた他のメイドに軽く頭を下げて、私はその場から離れた__。
自分の部屋に戻り、ベッドに身体を預ける。
(逃げてきちゃった……)
布団に顔を埋めると、先程見聞きした光景が、脳裏に思い浮かんだ。
学生時代から仲良がいい二人。
王子様であるガブリエルには、公爵家の令嬢であるミシェルはぴったりの相手だ。
私が入り込む隙などどこにもない……。
「待ってるって言ったのに……。会いたいよ……和……。私だけこんな苦しい思いさせてずるいよ。早く、迎えに来て……」
愛しい人への届かない恨み言を言いながら、私は次第に深い眠りに落ちていった……。
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