第18話 シロツメクサの花冠

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第18話 シロツメクサの花冠

 ガブリエルの問いに、私は一瞬ためらった。 ここで真実を全て言ってしまいたい。 しかし、今後この国の未来を背負っていくガブリエルにそんなことは言えないという葛藤もある。 私は、ガブリエルの顔を見ずにシロツメクサを探すふりをして答えた。 「ガブリエル様の結婚話が出て驚いてしまったんです。それに、あんなに素敵なお相手がすでにいることも全く知らなかったので……」  私がそう言うと、ガブリエルはふっと笑って言った。 「あーミシェルのことか。もしかして嫉妬してんのか?」 「違っ! 嫉妬なんてしてません!」  見ないと決めていたのに、思わずガブリエルの顔を見てしまう。 そんな私を見て、ガブリエルは面白そうに笑った。 「ははは。あいつも悪い冗談言いやがって。ミシェルには他に婚約者がいるってのに」 「え、……」 「だから、ミシェルには婚約者がいて来月結婚するんだそうだ」 「えっ、でも、周りの皆さんに祝福されてましたよね。二人はお付き合いをされているからって」 「あの後、否定したんだが。その時、お前もうあの場にいなかっただろ」 「本当、ですか? ……」  私は、信じられない思いで下を向いた。 ガブリエルは、そんな私の顎を指で持ち上げ言った。 「こっち向け」  無理矢理上を向かされ、ガブリエルと見つめあう形になり頬が赤くなるのを感じる。 すると、ガブリエルが私の頭の上にシロツメクサで作った花冠を乗せた。  (あっ……)  その瞬間、(やまと)の懐かしい顔が浮かび、ガブリエルの顔と重なり合う。 そして草原を一陣の風が吹き抜けていき、私とガブリエルの周りのシロツメクサが一斉に揺れ動いた。 私とガブリエルは、しばらくお互いを見つめあったままその場に佇んでいた……。  まるで、この世界に私とガブリエルだけしかいないような不思議な気持ちだった。 はっ、と我に返った時、先に口を開いたのはガブリエルだった。 「ゆう、り、……」 「え? ガブリエル様? 今なんて?」 「侑李(ゆうり)、なのか? ……うっ……」  ガブリエルは前世の私の名前を呼ぶと、頭を押さえてその場に崩れ落ちた__。
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