24人が本棚に入れています
本棚に追加
第7話 紅茶のシフォンケーキ
思い出した懐かしい記憶……。
その日、私は朝から張り切って『紅茶のシフォンケーキ』を焼いていた。
入院している和に美味しいものを食べさせたかった。
そのために、一時帰宅を許された時に『紅茶のシフォンケーキ』を作ろうと前々から計画していたのだった。
出来上がったシフォンケーキを綺麗にラッピングし、うきうきしながら彼の部屋にお見舞いに向かった。
喜んでくれた彼の笑顔と、二人でお茶を飲みながら食べた『紅茶のシフォンケーキ』の味……。
久しぶりに思い出した記憶に、私はその場でそっと目を閉じた__。
「オリアーヌ……オリアーヌ……」
どこかで私を呼ぶ声が聞こえる……。
私は、ゆっくりと目を開けた。
思い出に浸りながら、そのまま少し眠ってしまったらしい。
すると、そこには心配そうなラファエルの顔が間近にあった。
「……!!!」
「オリアーヌ、大丈夫? やっぱりまだ身体が本調子じゃないんじゃない?」
「も、申し訳ございません! もう大丈夫です」
私がお辞儀をして一歩後ろに下がると、そこにはガブリエルがいた。
「!!!!」
ガブリエルは、びっくりしている私の顔を両手ではさんで言った。
「口開けろ」
「はい!?」
「早く」
訳がわからぬまま私が口を開けると、口の中に何かを詰め込まれた。
「むぐっ!?」
口に詰め込まれた物は、すぐに私の口の中でスーッと溶けていった。
「甘くて美味しい……」
それが『紅茶のシフォンケーキ』だということにすぐ気づき、ガブリエルの顔を見上げた。
ガブリエルは、私をからかうように言った。
「美味いだろ。てか、お前そんなに『紅茶のシフォンケーキ』食いたかったのか? 寝言で言ってたぞ」
「ええ。思い出のスイーツなんです……」
私がしみじみそう言うと、ガブリエルはいつもと違い神妙な顔をした。
「ふぅ〜ん」
ガブリエルはそれだけ言うと、「じゃあな」と部屋に戻っていく。
私は、その後ろ姿を見てあることを考えた。
(もしかして、ガブリエル様って……和の生まれ変わりとか!?)
安直な考えかもしれないが、少しでも和との共通点を探したかった。
記憶が戻っていないのなら、なんとかして私のことを思い出して欲しい。
この日から、私はガブリエルのことをよく観察するようになった。
最初のコメントを投稿しよう!