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第9話 思わぬ展開
ラファエルと一緒に茶屋に入り、私はやっと周りの視線から逃れることが出来た。
この店は、少し入り組んだところにある隠れ家的な茶屋なのだ。
店内には、私とラファエルの二人しかいない。
二人だけという解放感と、店内に流れる心地よい音楽のおかげで、私はすっかりリラックスしていた。
「いいお店だね。オリアーヌと街に来るといつも新しい体験が出来るから嬉しいよ」
「ここのスイーツは本当に美味なんですよ!
ラファエル様も好きなものを頼んでください」
私がそう言うと、ラファエルは何かを思い出したように言った。
「そういえば、この間オリアーヌが体調があまり良くなかった時、食堂で少し寝てたよね」
「も、申し訳ございませんでした。メイドとして失格ですよね……」
私は、顔から火が出る思いでうつむいた。
「ううん。病み上がりだったんだから仕方ないよ。それで、その時に『紅茶のシフォンケーキ』って寝言で言ってたのを僕も聞いたんだけど。もしかしてオリアーヌも兄上と一緒で『紅茶のシフォンケーキ』が好きなの?」
「あ、はい。色んな思い出があるので」
「そう……」
ラファエルはそう言うと、テーブルに置かれたコップの水を一口飲んだ。
(そうだ。ラファエル様なら私の知らないガブリエル様のことをいろいろ知ってるよね)
私は、ラファエルを見つめながら私の知らないガブリエルのことを聞いてみようと思った。
「あの、ラファエル様。ガブリエル様は『紅茶のシフォンケーキ』の他に何か好きな物はあるんでしょうか?」
「うん? どうして?」
「あ、えっと、なんとなく他にもあるのかなって」
私がそう笑って誤魔化すと、ラファエルは普段聞いたことがないような低い声で言った。
「ダメ」
「えっ?」
「今日は兄上じゃなくて僕の担当でしょ? 僕だけを見て」
ラファエルはそう言うと、私の頬に片手を置いた。
そして、顔を近づけて私に尋ねた。
「ここのおすすめスイーツ教えて? 僕もオリアーヌと思い出を作りたい」
(ええっ!?)
ガブリエルのことを聞こうとしただけなのに思わぬ展開になってしまい、私はラファエルと見つめ合ったままその場で固まってしまっていた。
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