水面下の策謀

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水面下の策謀

 事の始まりは、満月が出ていた、やや肌寒い夜中での会話。 「アリスちゃんに猫耳が付いてたらそれはもう抱きしめるしかない」 「はい?」  窓枠に肘を付いて月を眺めるアレクサンダーの手には、お酒の入ったグラス。 (しかもロック! ちょっとちょっと!)  アイリーンは仲間の健康を思って「あれほどお酒は呑まないでよ!」と何度も注意しているのに、彼女は一向に禁酒どころか減量もしようとしてくれない。確かに彼女はどんなに飲んでも翌朝響かない、ある意味羨ましい体質ではあるけれど。  プラチナブロンドは見事に艶めいていて夜風にさらさら揺れて、端麗な横顔は憂を帯びている。それなのに台詞で台無しだ。 「もうこれ以上お酒は飲むのよくないって。それ以上胸がおっきくなったらどうするの?」 「なるか。それにこれぐらいで酔ったりしないから大丈夫だ」 「アリスちゃんが居なくなってから毎晩呑んでない?」 「……帰れる家があるなら見送るしか道はない」 「要するに自棄酒……?」 「兎の耳もいい……」 「どうしよう会話が成立しない」  ふぅと溜め息を吐いて、クッと飲み干し。じぃっと見つめられる。まるで子供が母親に新しい玩具を強請るような。まるで役立たずの大人を見下すような。 「はいはい判りましたよ判りましたよやればいいんでしょォォォ!」 「――騎士様の願い、叶えましょう」 「落ち着け」  寝起きの第一声からして問題だろうが、そんな事どうだっていい。とにかく現状を把握しない事には、先に進めない把握しても進めそうにない気がする。 「どう見ても、耳。だよね」  朝、何となく寝苦しくて目が覚めた。もそもそ布団とマットレスの間から這い出れば耳元でぱたぱたと羽音が聞こえた。鳥でも入って来たのかと思って部屋を見回しても、そんな影は何処にも見当たらない。首を傾げると、肩に柔らかい感触。髪の毛ではない感触。ふと肩を見ても何も付いてない。払っても、何も手に付いたりしない。その代わり。やたら柔らかいモノに触れた。そう言えば今日は耳が妙に動く。何だソレ。ぱしっと両耳を両手で挟んで、そうして叫ばなかった自分を褒めてやりたい! 「うーわ。よく出来てるー……って違う!」  慌てて鏡に自分の顔を写せば……耳があるはずの場所に別の黒い物体が生えていた! 触るとふわふわしていて、少しくすぐったい。……どうやら神経が繋がっているようだ。音はちゃんと聞こえているから、耳としてはちゃんと機能している。 「ていうか……学校、どうしよ……」  そんなシュテルンの心境に関係なく規則正しくグゥと腹は鳴った。自分でも言うのも何だが、正直な躰だ。とりあえず帽子でも被って朝ご飯だけはちゃんと食べなければ。それから、考えよう。まぁ適当に!
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