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エピローグ
アリアドネの町には、腕のいい薬師がいるという。
「エディ、その蕾をそうっと取ってちょうだい」
「これかい? これはまだ早いよ。こっちの方がいい」
きらきらと輝くような新緑の若芽が芽吹く中、一人の薬師と一輪のアルラウネが薬草をつんている。
あの日倒れた青年達は、そのまま還らぬ人となった。
死人に口なし。
アリアドネの森に何かがいるかもしれない、という噂も薄れた。
いつもの日常が戻った中、一人と一輪の関係は少し進んだようでいて、そうでもないような感じだ。
「ねえアリシア知ってる? アルラウネは人との間に種を撒けるんだよ!」
「何が言いたいの、破廉恥植物。燃やすわよ?」
「嫌だなあ、アリシア。たんなる一般常識だよ!」
賑やかで楽しい、かけがえのない日々はこれからも続いていくだろう。
何が起こっても、互いの手を離さなければ。
アリシアは柔らかく微笑み、一輪の花を愛でる。
その花は大きくてゴツくて、けして可憐ではないけれど、アリシアがいっとう好きな花なのだ。
今はまだ言えない言葉は、胸の奥で出番を伺っている。
完
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