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ビーナス対クラマ
私の周りをクラマの分身が取り囲んだ。
「くゥッ」
どれが本物なんだ。目で追うが捕まえきれない。
「ビーナス。気合いだァ。気合いを入れろォッ。気合いじゃァーーッ!」
またセコンドのオヤジがマットをバンバン両腕で叩いた。
「るっせェッ!」こっちは集中しているんだ。邪魔をするな。
こうなれば、片っ端から蹴りをぶち込んでやろう。
「喰らえェーッ!」
私は速射砲のようにキックを放つが全て空振りだ。
私が蹴ったのは分身だったみたいだ。
「くっそォ」
こっちが攻撃を仕掛けているのに明らかに劣勢だ。
コーナーへ追い詰められては分が悪い。
だがクラマもいつまでも分身していられるワケではない。
「行けェ、クラマ!」
向こうのセコンドも盛んに煽っていた。
けれどクラマも容易にこちらへ踏み込めない。
さっきの速射砲のようなキックを喰らいたくないのだろう。
「……」
対峙した者なら敵の力量がわかるはずだ。
間合いを詰めれば、敵のカウンターを食らうことになる。
痛い目に遭いたくなければ、踏み出すのを躊躇ってしまう。
プロレスは相手の技を受けることで、派手な大技がキレイに決まる。
だが、格闘技色が強くなるほど地味な技の攻防に終止する。
真剣ならば、面白いわけではない。
オリンピックの柔道やアマレスが観客や視聴者に取って退屈なのは、守り重視だからだ。
どちらも自分有利の組み手にならないと技を繰り出せないので、猫のケンカのようになるのだ。
結局、派手な技はひとつも出ず警告の数で勝敗が決まる。
これでは視聴者の期待に添えない。
ボクシングでも相手を倒しに行かなければ面白くない。
ショートレンジの打ち合いでクリンチが多くなる。
当然だが観客のブーイングが飛ぶ。
そんなボクサーはどんなに勝っても人気が出ない。
倒し倒されるようなスリリングな闘いに観客は魅了されるのだ。
当然だが敵を倒す間合いに入れば、自分も倒されるリスクが高くなる。
まさに諸刃の剣だ。
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