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1、2、サンダー
「……ナイン」
レフェリーがカウントを数えた。
「ビーナス。起てェーッ。気合いじゃァー」
セコンドのオヤジがマットを叩いて怒鳴った。
「るっせェ。気合いなら誰にも負けやしねえェんだよ」
私は渾身の力で立ち上がってファイティングポーズを取った。
「おおォーーーーッ」
地鳴りのような歓声が響いた。
しかしその瞬間、今度はロープに寄り掛かっていたクラマがズルズルとマットに沈んだ。
『おおォッ今度はクラマがダウン。やはりクラマ、ダメージが大きい。足にきてるのか。ロープダウン。これは立てそうにない』
「……、エイト、ナイン、テン!」
さらにレフェリーが続けてダウンカウントを数えた。
「わァーーッ、ビーナス、ビーナス!」
館内に割れんばかりのビーナスコールが響いた。
「勝者、ビーナス!」
レフェリーから勝ち名乗りを受けた。
『クラマ起てず。これでワイルドビーナスの勝利だァ!』
「やったぞォーーッ。ビーナス!」
セコンドのオヤジがリングに飛び乗って、私を高々と肩車をして讃えた。
「おいおい、恥ずかしいからやめろよ」
いつまで子供扱いなんだ。
「さァ、観客に応えるんだ」
オヤジは私をコーナーポストのてっぺんへ乗せた。
ここまでお膳立てしてもらったら仕方がない。
「よォし、みんなァ、いくぞォーーーー」
私は観客をグルッと指差し宣言した。
「おおォーーーー」
観客も応えた。
「1、2、サンダーーーー!」
オヤジの勝利の雄叫びをした。
会場が一体になって『サンダー』とコールした。
婚活に失敗したことも今は忘却の彼方だ。
こんなに興奮したことは滅多にないだろう。
どうやら私は根っからプロレスが好きなようだ。
THE END
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