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気合いを入れろォ!
「良いワケあるかァ。今度の土曜日は決戦なんじゃァ。気合いを入れろ。気合いじゃァ」
オヤジは両手で拳を握って腰を下ろし絶叫した。
「ッるせーな。気合いなんか入れようが、入れまいが、間違いなく私が勝つから安心してろよ」
私は耳を押さえるジェスチャーをした。
まったくうるさくて堪らない。
「ぬうゥ、ラブリィ。敵をなめてるのか?」
オヤジはポスターの相手を指差し喚き散らした。今回のメインイベントは私と女忍者クラマの対戦だ。
覆面ワールド世界一決定戦で勝った方に賞金三千円が贈呈される。
「はァ知るか」私はふて腐れて、そっぽを向いた。
「ぬうゥ、なんじゃァラブリ、試合でもないのに化粧なんかするなァ。色気づきやがって。お前、まさかワシに黙って彼氏とデートする気じゃないだろうな!」
「バカなの。普通、年頃になれば化粧くらい嗜むだろう」
むしろこの歳で化粧をしない方がおかしい。いつまで子供扱いなんだ。
「やかましい。恋愛にうつつを抜かすのは百万年早いんじゃァ!」
「百万年ってなんだよ。ほっとけよ。清純派アイドルじゃねえんだ。いくつになったら恋愛オッケーなんだァ」
「気合いじゃァ。気合いを入れてトレーニングに励めェ。これから十五時間ぶっ通しでトレーニングするぞォ。気合いを入れろォ!」
「うるせー。そんなトレーニングしてられるか。こっちだって忙しいんだよ!」
私は逃げるようにオヤジを振り切った。
デートの時間に間に合わない。
「ぬうゥ、待てェ。ラブリィー」
オヤジは必死に追いかけて来るがヒザが悪いので走れない。さっさと私は逃げ切った。
まったくデートするのもひと苦労だ。
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