ラブリ

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ラブリ

 オヤジの作った借金でウチの家計は火の車だ。  プロレスの新団体を作っては、倒産(ポシャッ)ていた。  メジャー団体での輝かしい栄光は過去のものだ。  オフクロも小さい頃、出て行ったきり帰って来ない。  しかもオヤジは懲りずにまた新たな団体『ワイルドプロレス』を()ち上げた。  今回の闘道館での興行が失敗すれば倒産もあり得るだろう。  この歳で露頭に迷うのは勘弁してほしい。  私がジムへ戻ると、さっそくオヤジの怒鳴り声が響いた。 「コラァーーッ、ラブリ。どこへ行ってたんじゃァ」   「はァ、小学生じゃねえェんだから、どこだって良いだろう!」  私はサンドバッグの前で軽くウォーミングアップをしながら怒鳴り返した。  まさかイケメン御曹司とデートで失恋したとは言えない。私にもプライドがある。 「ンだァ。どこだって良くねェだろ。今週の土曜日、タイトルマッチが迫ってんだぞォ。気合いを入れろォ。気合いだァーーッ!」   「うるせェーな。何が気合いだよ。バカのひとつ覚えか!」  確かめるように、サンドバッグを叩き出した。小気味良い音が響いた。  これまでも嫌なことはサンドバッグを叩いて発散させた。なにも考えず、ひたすらサンドバッグを叩いた。  ストレス発散には最適だ。 「良いか。相手のクラマは女忍者(くノ一)殺法で女子プロレス界屈指のファイターなんじゃァ。気合いじゃァ。気合いを入れるんじゃァ!」 「うるせー。気合いで勝てるならどうしてオヤジはチャンピオンじゃねえェんだよ」   「ぬうゥ、生意気言うなァ。クラマは変幻自在の忍者プロレスラーだ。なめて掛かると、痛い目に遭うぞ!」 「るっせェなァ。わかってるよ」  事前にクラマのこれまでのタイトルマッチはネットで確認済みだ。  くノ一殺法を駆使する狡猾(クレバー)な選手だ。  クラマとの対戦は、ひと筋縄ではいかないだろう。
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