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クラマ
今度の土曜日、メインイベントが決まっていた。
女子プロレスとしては破格のワンマッチで三千万円という優勝賞金が掛かっている大勝負だ。
もちろんオヤジの団体にそんな賞金など有りはしない。そんなことは試合する前からわかっていた。
万が一でも、女忍者レスラー・クラマが勝てばウチの団体は賞金が払えず破産だろう。
オヤジも夜逃げするしかないはずだ。
「おい頼むぞ。アジア最終予選並みに絶対に負けられない闘いなんだからなァ。お前だけが頼りなんだ!」
オヤジは盛んに拝み倒した。
「いやァ、じゃァ私が勝ったらいくらくれるんだよ」
まさか娘だからと言ってタダ働きってことはないだろう。
「フフゥン、ラブリが勝ったら『わんぱくハンバーガー』食べ放題だ。どうだ。嬉しいだろう」
胸を張ってTシャツのロゴを親指で差した。
Tシャツには駅前商店街のスポンサー『わんぱくハンバーガー』のロゴが入っていた。
「どこの大食いチャンピオンだよ。私が勝っても五百万円くらいくれよ。美容エステに行くんだから!」
婚活のためだ。
三千万は無理でも、五、六百万くらい出すだろう。
「うるせェーー。五百万円なんかある訳ねえェだろう。弱小団体のウチに。自転車操業なんだからなァ!」
また自慢げに胸を張ってみせた。半分ヤケ気味だ。
「威張って言うことかァ。それじゃ詐欺だろうがァ!」
はじめから優勝賞金を払う気がないのか。
「だからお前は勝つしかないんじゃァ。気合いじゃァ。気合いで勝つんじゃァーーッ!」
また得意のポーズでわめき立てた。
「はァ、何が気合いだよ。そんなんで勝てるか!」
もちろん私だって負けるつもりはない。
やるからには必ず勝ってみせる。
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