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3
航汰が料理作っていると家のチャイムが何度も激しく鳴らされた。確認すると依愛だった。慌ててドアを開ける。
「コウちゃあああん」そう言って依愛は玄関口で泣き始めた。航汰は慌てて依愛を中に入れた。靴を脱がせてあげて、ソファまで連れて行った。
依愛はソファに座っても泣きっぱなしだった。
航汰は依愛の前に膝をついて、依愛の顔を覗き込んだ。
「なにがあったの?」
「コウちゃんからもらったペンダントが、ペンダントが」そう言ってまたうわあんと泣き始めた。航汰が依愛の首元に目をやると、そこにはゴールドのチェーンが見えた。
「首につけてるじゃん」
航汰がそう言うと依愛は顔をあげて、キッと航汰を睨んだ。そしてペンダントトップを航汰の目の前に掲げた。航汰はそれをじっと見つめた。
航汰があの家から持ち出したものはもっと青い色をしていて、カメオではあるものの本物のシェルカメオではないことは調べて知っていた。カメオというものはどうやら石を使って細工することもあるらしく、恐らく青メノウを使ったんだろうなと思っていた。
それがいま依愛が掲げているのは青い色ではなくピンクベージュで、彫られた女の子の顔もくっきりとしていて作られた年代も新そうな感じだった。青いものはもっと輪郭がぼけていて歴史を感じさせるものだった。
「え? どういうこと……」
そう航汰が呟くと、依愛はまたわっと泣き出した。
依愛のお客さんに伊勢佐木町に宝石や貴金属、ブランドものを扱う質屋の店主がいる。米田というその男は依愛を贔屓にしていた。だが問題は米田が最近一緒になった中国人の妻であり、嫉妬深さはかなりのものだった。風俗はおろかキャバクラに行くことすら許さなかった。結婚前は週に一度は利用していたものが、今では月に一度あるかないかだった。しかも見つかったらおおごとになることを恐れて、先にホテルに入って先に出て行った。一緒に歩いているのが見つかったら大変なことになるからと真顔で言っていた。
今日の客は米田だった。
「水に濡らすとよくないよって言うから」依愛はそういうのに詳しい米田のことを信用してしまった。
「摩耗するからって。それでお風呂に入る時に外したの。そのまま出る時まで外してて、気がついたら……」
そう言って一旦泣きやんだ依愛の瞳はみるみるうちに涙でいっぱいになった。
航汰は依愛の頭を撫でた。きっとプレゼントをすり替えられたのも悔しいけれど、長年贔屓にしてくれた客に裏切られたのも悔しいし悲しいのだろう。
「取り返すことは無理かもしれないけど、明日米田の店に行ってみようよ」
「……明日はコウちゃんも私も仕事」
「じゃあ明後日行こうよ。二人とも休みだろ?」
依愛は鼻をすすりながら頷いた。
「今日は依愛の好きなシチューにしたよ。だから泣かないで一緒に食べよう」
顔を洗ってくると依愛は立ち上がった。
正直、米田が盗んだという証拠はない。それに問い詰めたところできっとしらばっくれるはずだ。依愛にはまた新しいのを買ってあげよう。航汰は胸の中でそっと思った。
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