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家に帰っても、陸に電話することを迷った。
それでも結局、電話することに決めたのは、お花のお礼を伝えたかったから。
決心して、陸の名前をタップした。
しばらくコールが鳴った後、ようやく応答があった。
「誰?」
電話に出たのは女性だった。
「永瀬さんは?」
「ああ、勘違い女かぁ」
その時後ろで陸の声がした。
「勝手に人の電話出るな!」
「だって、りっくんー―」
りっくん?
電話は急に保留音に変わった。
陸が保留音を使うのは初めてだった。
今までも、電話をした時、誰かと一緒の時はあったけれど、陸はそのまま話していたから、後ろの声が聞こえていた。
だから、保留音の機能を知らないんじゃないかと思ったこともあった。
でも、今は保留音にされていて、わたしがこうやって待っている間、何を話しているのかわからない。
「勘違い女」って、わたしのことだよね……
いつまで待っていればいいのかもわからないから電話を切ろうとした時、保留音が止まった。
「ごめん」
「陸、お誕生日おめでとう。お花ありがとう」
「あのさ、さっきの……」
さっきの女性?
「やっぱりこんなのダメだ」
だめ、って何が?
女性の声が後ろで小さく聞こえた。
「だからそんな女ほっといて――」
それから陸のはっきとした声。
「もう、勘弁して」
そこで、電話は切られた。
勘弁して?
泣くかと思ったら、今度は意外なことに涙は出なかった。
やけに冷静な自分がいる。
少しでも花を長持ちさせたくて、冬でもいつもは暖かくしないでいる部屋のエアコンの温度を上げた。
部屋が暖かくなってきて、やっぱりいつもの温度に戻した。
お花がかわいそうだからね……
バスタブにお湯をはって、いつもよりゆっくりと体を温めた。
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