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今日は僕の誕生日、10月20日、24歳になる。僕には彼女がいて、
山崎香織という。25歳。
香織からは誕生日プレゼントとしてセーターをもらう。買ったものだけれど。彼女が僕のためにセーターを編もうとしていたので止めた。重いからやめてほしいと。
香織は不服そうな顔をしていたが、素直にわかった、と言いやめてくれた。
彼女のいいところは素直なところ。僕は外見がかわいいに越したことはないが、それよりも女子の内面を重視する。
家族からもプレゼントをもらった。両親からは、スーパーマーケットで買ってきた寿司をこれからいただく。妹からは、ブーツを買ってもらった。祖父母からは、何がいいかわからないという理由で、現金をくれた、一万円。
彼女や家族にここまでしてもらってなんて幸せ者なんだろう、と思った。だからすごく嬉しい。
家族みんなで寿司をいただいたあと、香織とラブホテルに行った。そこで紺色のセーターをくれた。僕はすごくうれしかった。なので、その夜は思い切り愛した。その時は、あまりのうれしさに避妊をしなかった。
翌月になり、香織からメールがきた。
<生理がこない、どうしよう>と。
僕はもしかして? と思った。
<もし、妊娠していたら産んでほしい>
と伝えた。
<え! いいの? うれしいんだけど!>
<もし、妊娠していたら僕と香織の愛の結晶だよ>
<そうね。産婦人科には一緒に行ってくれない?>
<ああ、もちろんだよ>
僕の名前は大城直樹という。百円ショップの主任として勤務している。
店長がいるときは、店の責任は店長にあるが、別な店舗に行っていない場合の店の責任は主任である僕にある。
店長は2店舗を経営していて、僕がいる店舗は9時~20時まで開店している。
僕は店長がいてもいなくても、開店から閉店まで働いている。なかなか厳しい業界だ。薄利多売と言って、1品あたりの利益が少ないから、少しでも多く売らないと純利益がでない。
香織は明後日、地元の産婦人科に行きたいと言っている。これは僕のことを考えて言ったようだ。明日なら急で店も困るだろう、と考えたらしい。彼女なりの気遣いはうれしい。
休みをとることを今日店長に話して、休む理由を訊かれたので話したら、
「おお! そいつはめでたい! 妊娠してるといいな」
と言ってくれた。
2日後ーー。
僕と香織は9時に産婦人科に向かった。
そして、検査をした。女医は診察にいる僕らに向かって、
「おめでとうございます」
と笑みを浮かべながら言った。
「おお! よかったな!」
僕は香織に向かって言った。彼女も顔を紅潮させて、
「うん!」
と喜んでいる。
互いの両親にも報告しなければならない。まだ、会ったこともないのに。
報告するのはやはり2人で行かなければならないだろう。結婚もするし。
結婚式や披露宴はどうしよう。香織と話し合わなあいといけない。まずは、僕の両親に報告に行くことにした。そのあと、香織の両親に報告しにいく。そう決めた。
今、僕の実家にこれから行くことを母に電話で伝えた。母は不思議そうに
「わかった、待ってるよ」
どうやら父は仕事でいないらしい。
僕は1人暮らし。
誕生日に香織からもらった紺色のセーターを着て、ジーンズを履いた。メールで香織に支度はできたか訊くと、今メイクをしているらしい。彼女も1人暮らしだ。
<来てもいいよ>というメールが来たので、僕は行くことにした。シルバーの乗用車に乗り、出発した。車は去年の10月に買ったので、約1年経過する。
行く途中でコンビニに寄り、飲みものを買った。香織は、ミルクティー。僕は微糖の缶コーヒー。
香織の住んでいるアパートに着き、僕は彼女の車の左側に駐車した。そして車から降り、鍵をかけ、香織の部屋のブザーを鳴らした。ブーっという音がした。中から香織の声が聞えた。
なかなか開けてくれないので合い鍵を持っているので開けて入った。そして、香織の名前を呼んだ。
「直樹? あがっていいよ」
そう聞えたのであがった。入ってみるとまだメイクをしていた。ミルクティーを彼女に渡すと、「ありがと」と礼を言った。
僕は缶コーヒーの栓を開け、一口飲んだ。うまい。僕は言った。
「メイクをしたら色気が増すよな」
「そう? ありがと。それにしても直樹のご両親に会うの初めてだから緊張するなぁ」
「それは、僕も同じだよ」
「まあね」
そう言って香織は笑っていた。かわいい。
「午前中は僕の実家に行って、午後から香織の実家に行かないか?」
「うん、それでもいいよ。お母さんに言っておくわ」香織は言った。
香織はメイクを中断し、メールを打ち始めた。お母さんにメールを送るためだろう。訊いてはいないが。そしてまたメイクを再開した。
「もう少しで終わるから待ってね」
「わかった」
それから30分くらいしてから、「よし! メイク終わり!」と気合いの入った声が聞えた。僕は居間でテレビを観ていたが、観るのをやめてテレビの電源を切った。立ち上がり、香織のいる部屋に行って、
「もう行けるのか」
「あと、着替えたら行ける」
「何だ、まだか」
「もうすぐだから待って」
僕は黙っていた。
香織は白いブラウスを着てチェック柄のロングスカートを履いた。
「あんまり見ないでよ。恥ずかしいじゃない」
そう言われて僕は爆笑した。
髪の毛はポニーテールにした。かわいい!
「準備できたよ。行こう」
「よし! 行くか」
僕らは車に乗り、発車した。10分くらい走って着いた。
「うわ~、緊張する~」
「大丈夫だよ、うちの母さんは優しいから。悪いようにはしないよ」
「そうなんだ」
僕は車から降りた。でも、香織は降りようとしない。僕は助手席の方に回り込んでドアを開けた。そして声をかけた。
「行こう?」と。
「うん」
香織はゆっくりと車から降りた。表情が引き攣っている。どれだけ緊張してるんだと思った。
「大丈夫?」と訊いてみると、
「うん、大丈夫。慣れだと思うから」
さすがだ。さすが僕の将来の奥さん。
ゆっくりと歩き、僕は香織を見守っていた。手を差し出してみたが、
「いやいや、周りから丸見えじゃない」
と言われ、手を引っ込めた。
僕のあとを香織がついてくる。玄関のドアを開け、叫んだ。
「ただいまー!」
すると、母が居間から出て来た。
「あら、直樹。来たのね。ん? 後ろの女の子は?」
香織は自己紹介した。
「初めまして、こんにちは。山崎香織といいます」
母は混乱しているようだ。
「直樹の彼女?」
「うん、まあ、中入ろう」
「そうね、入って」
居間に入って僕は香織と並んでソファに並んで座った。僕は、
「今日は話しがあって来たんだ」
「話し?」
「うん、香織は僕の彼女なんだけど、妊娠してるんだ。だから産んでもらおうと思って」
「結婚するんでしょ!?」
「あ! プロポーズしてない」
香織は笑っている。母は、
「なにやってるの。香織ちゃん、こんな息子だけど本当にこの子でいいのかい?」
「はい」
「そう、まあ、適齢期といえば適齢期ね。驚くような年でもないし。香織ちゃんはいくつ?」
「25歳です」
「直樹より1つ年上ね。姉さん女房だね。お父さんにも言っておくから」
僕はもっと母が驚くかと思ったら全然そうじゃなかった。
反対もされていない。逆に賛成されている。母は気を遣ってくれて、
「何か飲む? カルピスとお茶しかないんだけど」
「いや、来る途中でコンビニで買ったから大丈夫だよ」
「そう? 悪いね。結婚式とか披露宴は考えているの?」母に訊かれた。
「それはまだ話し合ってないんだ」と答えた。
「まあ、安い額じゃないからね。写真を撮るだけでもいいかもね」
「私はそう考えています」と香織は言った。
「そうなのか、知らなかった。だって、何にも言わないから」
「あ、ごめんね。言うの忘れてた」
「大事なことなんだから、忘れないでくれよ」
僕はつい強い口調で言ってしまった。香織は黙った。
「直樹! そんなに強い言い方しなくてもいいじゃない」
母に怒られてしまった。僕は黙っていた。
「香織ちゃんのご両親にも話したの?」
「いや、午後から行く。そう、じゃあ、お昼ご飯食べてったら?」
「いや、いいよ。自分達で食べるから」
「そう、香織ちゃんともっと話したかったのに」
「今度またゆ……」
「あ、それならいただきます」
母は笑みを浮かべながら、
「なかなかノリがいいじゃない。お父さんはいないけど三人でゆっくり話そ」
「はい!」
香織は元気よく返事をした。
彼女は世渡り上手な気がする。さっきの母にご飯食べて行ったら? と言われて、僕が当初とは違うことを香織は言ったから。
人を不快にさせない、というか。その辺がうまい。きっと人間関係の構築が上手なのだろう。その辺が羨ましい。
逆に僕は内気なせいか、人間関係をうまく作れない。慣れてしまえば大丈夫なのだけれど。それまでに時間がかかる。だから、香織と交際するまでに2年かかった。彼女のほうからアプローチされていたのだけれど。
母は、オムライスを作ると言っている。親と同居していたころ、母が作ってくれた料理を食べていたけれど、オムライスがうまいかどうかは忘れてしまった。
結婚しても親と同居する気はない。香織と僕と子どもで生活する。そのつもりでいる。たまに、実家に行って親の様子をみるつもり。とは言ってもまだ親は元気だ。若いし。だから、先々のことを考えていうと、そうなる。
母はオムライスを作り始めた。3人で喋ってて、あっという間にお昼の時間になった。見る限り、香織はだいぶリラックスしてきたようだ。慣れてきたみたいでよかった。
「おかあさん、やさしいね!」と僕に言ってきた。
「まあ、そうかもしれないね。直接言ってみたらは?」僕がそう言うと、
「恥ずかしいよ」と言いながら赤面している。そういうところもかわいい。
僕は、香織をおもちゃにしたいと思った。傷つかない程度に。僕の大切な香織だから。
母がトレーにオムライスを載せて居間にあるテーブルの上に僕と香織の分を置いていった。彼女は、
「ありがとうございます。美味しそう」
と言った。僕は、
「ありがとう」と礼を言った。母は、
「たくさん食べてね、まだ、あるから」
「母さん、食べないの?」と僕が訊くと、
「食べるよ」と答えた。
たくさん作ったんだなと思った。
香織が一口食べて、
「美味しい!」と声をあげた。僕は、
「確かに!」そう言った。母は、
「ほんと? 味見しなかったから、どうだろうと思ったけれど美味しいならよかった!」
「味見しないでこんなに美味しいだなんて、凄いです!」
香織は絶賛している。まあ、何にせよ彼女の口に合ってよかった。
母は、煙草に火を点けた。大きく吸って煙をはいた。
「母さん、たばこやめてないんだな」
「そうなの。なかなかやめれなくて」母がそう言うので僕は、
「それは、やめれないんじゃなくて、やめる気がないんだ」きつく言った。
「いやいや、そんなことないのよ。やめる気はあるの」それに対し僕は、
「じゃあ、お金に困ってないのか」すると母は、苦笑いを浮かべながら、
「まあ、困ってはいないかな」僕は、
「やっぱり」と言った。
「香織ちゃんのおとうさんは、どんな仕事をしているの?」母が質問した。
「役所で働いています」
「へぇ、それは安定していていいわね」
「まあ、そうですね」香織は穏やかな笑みを浮かべている。
「うちの旦那はトラックの運転手よ。スーパーマーケットのね」
「へえ、あの大きなトラックを運転されるんですね、凄い!」
「ありがとね。まあ、トラックの運転はわたしもできないから確かに凄いかも。自分の夫を褒めるのもどうかと思うけどね」言いながら母は笑っている。
「兄妹はいるの?」
「はい、兄がいます」
「そうなの、直樹にも兄がいるの、知ってるかもしれないけれど」
「いえ、知りませんでした」香織は答えた。
「そう、身内の話しはしないかな」
「ええ、あまり」
「付き合ってるときは、そういう話しは大概しないよ。それより、2人の話しをしているよ。あと、趣味の話しとか」僕は言った。
「直樹と香織ちゃんの共通な趣味ってなに?」母が訊く。
「プロ野球観戦だわ」僕が答えた。
「面白いよね、野球は。できないけど」香織は笑顔を浮かべながら言った。
「面白いね!」
「へー! いいね! そういうの」母は羨ましがっている。
「でしょ!」
結構、3人で喋ったので、
「そろそろ香織の実家にいくか」と言うと、
「うん、そうね」彼女は頷いた。
「じゃあ、母さん、また来るわ」
「うん、気をつけてね」
「お邪魔しました。お昼までいただいて」と香織は言った。
「いえいえ、なんも大したことじゃないから大丈夫よ」
「ありがとうございました! 失礼します」香織は元気に言った。
僕と香織を母は見送ってくれた。相変わらず優しい母だ。車に乗った僕らは香織の実家へと車を走らせた。でも、家がわからないので彼女にナビをしてもらった。
行ってみると、隣町だ。しかも、山の方。周りをよく見てみると、どうやら農家を営んでいるようだ。
「何を作ってるの?」僕は訊いてみた。
「お米と、ミニトマトだよ」
彼女は得意気に言った。誇りに思っているのかな、実家が農業をしていることが。時刻は13時30分頃、もう昼休みを終えて仕事を再開しているだろうか。助手席に座っている香織に訊いてみると、「うーん、どうだろ?」と、わかりかねる反応だった。
「まあ、行ってみよう!」香織は言った。
「そうだね」
僕の車を倉庫の隣に停めた。倉庫に白い軽自動車とグレーのワゴン車が停まっている。車が2台もある、彼女の家はお金持ちなのか? そう思ったけれど、訊かなかった。お金の話しは控えよう。以前、友達とお金の話しをして揉めた事があったから。それを教訓にしている。
結婚するにはお互いの通帳を見せ合わないといけないだろう。香織の貯蓄はどれくらいあるのだろう。僕は、毎月1万円ずつ貯蓄している。車税と車検の支払いのために。香織も自分の車があるからそれなりの貯蓄はあるだろう。
僕は前まで車検代を分割で払っていた。でも、利子を払う分を考えるともったいないと思い、一括で払う事にした。
香織が先に車から降り、次に僕が降りた。初めて会う人だし、ましてや彼女の両親だから積極的になれない。気を遣う。当然のことだと思うが。
緊張してきた。僕の実家に来た時の香織の心境はこういう感じだったのだろう。
玄関には先に香織が入って、その後を追いかけるように僕が入った。
「ただいまー!」元気よく彼女は言った。僕は、「お邪魔します」とやや小さめの声で言った。
「はーい!」おかあさんの声だろう、元気がいい。
玄関にやって来て、僕を見るなり驚いた表情になった。
「私の彼氏で、大城直樹君っていうの」
「どうしたの、急に」
「話したい事があってきたの、まあ、上がってから話すよ」
「お邪魔します」と言って上がらせてもらった。
「ソファはないから、座布団に座って?」香織はそう言った。
僕は言われた通り床に座った。
「実はさ、子どもできちゃって」
「え! そうなの? 病院には行ったの?」おかあさんは言った。
「うん、行ったよ。産むつもり」
「そう、大城君はどんな仕事をしてるの?」僕はおかあさんの方に顔を向け、
「百円ショップの主任をしています」胸を張って言った。
「へえ、主任なんだ。凄いわねえ」
「いえいえ、そんなことはないです」僕は恐縮してしまった。
「お父さんには伝えておくから。わたしは産むことには賛成よ。もちろん、結婚するんだろうし」お母さんは笑みを浮かべながらそう言った。
「まさか、お父さん、結婚と出産に反対しないよね?」不安げに香織は言った。「大丈夫じゃない? 大城君もちゃんと仕事してるし」
「それと、大城君じゃなくて、直樹君って呼んで?」彼女は言った。
「わかったよ、結婚していて苗字を呼ぶのは変だよね」
おかあさんは苦笑いを浮かべていた。
「晩御飯食べて行く?」おかあさんは言った。
「いやあ、夜来た時食べるよ」香織は言った。
「そう、わかった」お母さんはちょっと残念そうだ。
僕としてはいてもよかったが、でもそれは言わなかった。
いろいろ質問してくれた。親の年齢、仕事は何か、兄妹はいるのか、僕の年齢、などなど様々なことを。
でも、いい人そうだ。おとうさんも僕らの結婚と出産を許してほしいな。僕はおかあさんに訊いてみた。「おとうさんはどんな方ですか?」
「そうねえ、優しいよ。真面目だし」おかあさんはそう答えた。
そういう人なら許してくれるかもしれない。大切な娘をもらうわけだから簡単ではないけれど。
今日はこの辺で帰るのかな。僕は香織に目配せをした。
「じゃあ、この辺で帰るよ、お母さん」
「はいよ、直樹君、またね!」
「はい!」
「気をつけて帰るんだよ」
「うん、わかったよ」香織はそう答え玄関を出た。僕はその後をついて行く。
車に乗り、「あー、緊張したー!」と僕は言った。
「普通に喋っているように見えたけどね」香織は言った。
「普通じゃないよ、そう見えただけだよ!」
「そうなんだ」と言いながら、彼女は笑っていた。
「緊張するのはお互い様だろ」
「まあ、そうね」
運転しながら香織に訊いた。「式あげるか?」
「そうね、披露宴はしなくても、式はあげたいね。写真も撮って」
「そうか、わかった。じゃあ、そうしよう。因みに、出産前の方がいいだろ?」
「うん、もちろん! まだ、妊娠したばかりだからその方がいい」
「わかった」
「あと、結納金の代わりに、箪笥買うか?」
「箪笥? いや、何もいらないよ。箪笥を買うなら新婚旅行の費用に充てよう?」
「そうだね、そうするか。どこに行きたい?」
「そうねえ、本当は海外に行きたいけど、妊娠してるから道内にしておいて、出産したらどこか遠くに行こう?」
「うんうん、わかったよ」
「直樹はどこか行きたいとこないの?」
「僕は美瑛町にある青い池を見てみたいな」
「あ、それいいね!」
「だろ! それに、出産してから海外も行けなくはないだろ」
「まあ、行けなくはないけど、ある程度成長してからになるわね」
「そうだな、赤ちゃんの内は無理だな。おむつを交換したり、ミルクあげたりしないといけなからな」僕はそう言った。すると「確かに」と香織はいった。
話し合った結果、結婚式は挙げるけれど、披露宴はやらない。だからお互いの身内だけ呼ぶことにする。新婚旅行は道内のどこか、もしかしたら美瑛町の
青い池を見に行くかもしれない。結納金は新婚旅行の費用に充てることにした。
後は赤ちゃんが無事産まれてくれるのを祈るだけ。もう1つ忘れていることがあった。結婚指輪を買わないと。いくらくらいのが良いかなぁ、2人で10万くらいかな。香織に話してみよう。すると、「それくらいじゃないかな」と言っていた。「じゃあ、2人で買いに行こう」と言うと「宝石店かデパートにしようか」香織はそう言っていた。憶測ではデパートの方が安そう。別にケチるつもりはないけれど、安くて良い物が手に入ればいいなと思って。そう伝えると、「確かに」と言っているから今から行くことにした。財布の中にはクレジットカードが入っているのでそれを使おう。
「えー! 利子払うのもたいないじゃん、現金で払おうよ。折半なんだから大した額じゃないでしょ」
「単純計算で5万ずつでしょ、僕そんなお金ないよ」
香織を見ているとイライラしているように見える。
「怒ってるの?」僕が訊くと、
「5万もないの? 全く! じゃあ、私は現金で払うから、直樹はカード払いにしなよ」
「わかったよ」
何で命令されなくちゃいけないんだと思ったけど言ってない。お金がないのは事実だから。それでも仲良く生活していきたいと思っている。お金も大切だが、愛も大事。今、僕らは現実を突きつけられている。子どもを育てること、家族の為に一生懸命働かなければならないこと。少なくともこの2つは立場上普通の事だろう。幸せを掴む為に頑張らなくては。家族が幸せなら、僕も幸せということだ。これから先、嫌な事や大変な事があると思うけれど、負けずに頑張っていきたいと思っている。それが幸せに繋がるのなら。
了
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