まだほろ苦い

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流石はガーデンウェディングも人気の式場。 淡く瑞々しい植物はきっと計算されて植栽されているのだろう。 覇気の無い足取りでそれらを眺めて歩く百路だが、ふっと聞こえて来た一人や二人では無い声に視線をやった。 教会の隣で学生服を着た若い男女がざっと二十人以上はいるようだ。 きゃきゃっとはしゃぎながらも、しーっと口元に人差し指を合わせる者や、何やら打ち合わせをするようにこそこそと相談する者。よく見ればひとりひとりがラッピングされた一輪の花を持っている。 (………何だ、あれ) 一体何の団体だろうか。 宗教とかだったらヤダ、怖い。 あんな集団に突っ込んで行く勇気なんて無い。そろりと後ずさり、庭を囲っている様に植付されているバラが途中途切れている小道を発見すると、即座にそこへと飛び込んだ。 もしかしたら隣の披露宴会場と繋がっているのかもしれない、と思ったのだが、 「へ、」 「あ?」 確かにそこは小道が続いていた。 茂みの中にある小道。そして、小さな空間がありベンチがひとつ。 「何、お前」 おまけに、人がひとり。 「え、あ、え、えぇ、っと、」 咄嗟に声が出ないのは、まだ百路が十歳だから、とか、まさかこんな所に人が居た事に驚いてしまったから、も勿論あるのだが、それ以上に驚愕したのはその男の風貌だ。 少しウェーブの掛かった薄いグレージュ色した前髪は顔半分くらいを覆う程に長いがそれでも分かる、その美。 細めているのに大きいと分かる眼に、物差しで測ったかのような美しい鼻筋とその高さ。唇も乾燥知らずであろうサーモンピンク。それら全てのパーツが完璧ならば配置もパーフェクト。 身体つきも華奢と言うか、薄い。と言うか、全体的に薄い。 色素も身体も。 本当にそこに存在するのかと疑うくらいのそれに、これが透明感と言うのかもしれないとまじまじと見つめてしまう百路はぎゅうっと拳を握り締めた。 一瞬女性かと見紛うてしまうくらいだが、まさにこれが、 (び、美少年、って、やつ、だ…) よく見れば制服を着ている。 今しがた見かけた団体と同じ制服。どこかの学生か、と納得しそうになった百路だが、 「で?何してんの?」 ふーっと紫煙を吐き出す美少年にぎょっと眼を見開いた。 「え、え、た、ばこ、」 「うん?」 煙草を吸っている。 さも当たり前のように、ベンチに凭れ掛かり踏ん反り返るのような姿勢で、学生なのに、美人な顔をしているのに、だ。 後半は百路の偏見ではあるものの、あまりに不釣り合いだと思わず眉を顰めてしまうのも仕方ない。 揺らぐ紫煙と匂いにも慣れない。 さて、どうすべきか。 このまま普通に踵を返し、さっさとこの場を離れるのが得策だろうし、普通の行動だろう。 「座れば?」 「え、」 「ここ」 なのに、座ってしまった。 美人のお誘いだから? そんなに自分は綺麗な人が好きなのだろうかと自問自答する間も無く、流れるような所作で隣に腰掛けた百路はきゅっと唇を噛み締める。 「お前何してんの?」 滑舌が良いのか、声も良く透る。 「こー君の、あ、従兄弟の、け、結婚式、で、」 「こー君?従兄弟?あぁ、先生の結婚相手の親戚なのな」 「先生、?」 「お前の従兄弟の嫁、俺の担任」 つまり、 「…こー君のお嫁さんて、学校の先生なんだ」 「そう言う事だな」
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