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まだほろ苦い
東郷百路は、取り合えず言いたい事がある。
まずドラマ然り漫画然り、恋愛においての三角関係に関しては必ずと言っていい程第二の男なり女なりに惹かれる癖があった。
姉に見せられた花より〇子は道〇寺より花〇類派だったし、花ざ〇りだって中〇が好きだったし、母親の影響で見ていた韓流ドラマでも常にメインカップルの隣で対抗意識を燃やしつつも、最後は健気に気持ちを押し殺す恋のライバルを応援したものだ。
(俺だったら絶対にこっちなのになー…)
と思う事もしばしば。
そんな彼の初恋は従兄弟だった、と思う。
しかも男だ。
明るい笑顔に気さくな性格、十五も離れている親戚なんて面倒な子供なだけだろうに、嫌な顔ひとつせずに一緒に遊んでくれる従兄弟へ憧れ以上の感情を抱いていたのは子供だからの言葉では片づけられない。
(こー君、めっちゃ好きぃ…)
幼少期は母親が仕事で忙しいのもあり、叔母の家に預けられる事もしばしばの中、それでも寂しくなかったのはこの『こー君』のお陰だった。優しい笑顔に物腰柔らかい対応。好きにならない訳が無い。
仕方ない。こー君をお嫁さんにしよう、なんて幼心に男としての決意もあったのはお約束と言うもの。
勿論こー君はそんな幼い子供の気持ちなんて知る由も無く、ただひたすら低い位置から放たれる好き好きオーラを笑顔で受け止めるだけだった。
そして、着ては貰えぬセーターを編むくらい一途に思い続けて早数年。
それは百路が十歳になった頃の事。
「こー君、結婚するんだって!しかも年上の姉さん女房!」
きゃっきゃっと十代の小娘の如くはしゃぐ母を前に、小学校から帰ったばかり、おやつの塩大福を皿ごと落とした百路の顔が大きく歪んだ。
*
真っ白いチャペルに新郎新婦が主人公の本日良き日。
膝を抱えてぐすっと鼻を鳴らす百路は手入れの行き届いた緑も鮮やかな教会の庭でそこを睨み付ける。
お日柄も良い大安、何が嬉しくて大好きなこー君とその花嫁を見なければならないのか。しかもお祝いしろとか、それって何て言う苦行?
母親が嬉々として購入してきたネクタイ付きのこのシャツも着ぐるしくてしょうがない。
今中ではきっとこー君と花嫁が愛を誓いあっている事だろう。
キスもある、なんて聞いて、どうしても見たくなくて庭まで逃げてきたが、どうせ式に飽きて遊びに行ったのだろうくらいに思われているのかもしれない。
(…あーあ……)
好きな相手が幸せになろうとしているのに、祝福出来ないとか情けない。
まさにこれが二番手の苦しみと言うものなのだろう。
ふんっと荒い鼻息が物語る百路の憤り。
(……………でも、)
ちらっと見えたタキシード姿のこー君の恰好良かった事。
あんなに格好良いのだ。当たり前に女性からモテるのかもしれない、それは分かる。
もしかしたら、花嫁とこー君のココが好き選手権で競い合う事も出来るかもしれない。
(……楽しい、かも、)
出てくる溜め息が五月の風と交じり合う。
こうしていても仕方が無い。
結局こー君は今日結婚して、他の人間のモノになってしまうのだ。
世界で一番幸せになる為に。
すっと立ち上がった百路はふわふわとした芝生の上を歩み出す。
今更教会の中に戻るのも気が引ける。変に目立つのも嫌だ。
庭の中を探検しよう、と思ったのかどうか定かでは無いが教会を囲むように咲いている薔薇を伝い歩く。
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