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「今日はガキんちょ共が多いなぁ」
僕の隣で愉快そうにそう話す、このガタイの良い黒髪長髪の若い男性は素戔嗚尊だ。
「どれ、運動部の奴らがいないか見て来よう」
彼は目を輝かせながら、嬉々とした様子で制服の集団の方に近寄っていく。
「相変わらず脳筋ですね、全く。では、私は美術部の者がいないか見て参りましょう」
同じく僕の隣――素戔嗚様とは反対側でそう語る、真っ白な長い髪に同じく純白の狩衣姿の儚げな美青年は月読命。
天照様、月読様、素戔嗚様は3姉弟で、彼ら2人もまた、うちの神社の御祭神様なのである。
3人とも人間――特に、自分達が守護するこの日の本の民が大好きで、人が沢山来れば来る程、この様にウキウキしてしまうのだ。
ただ、大変残念なことに、そんなウキウキした――心底楽しそうな神々の様子は、霊感のない者には全く見えないのだけれど。
ともあれ、学生服を着た集団は、自分達の直ぐ近くに神々がいること等一切気付く様子はなく、境内にある様々なものに目を輝かせながら、自由に散策している様だ。
楽しそうな制服姿の学生達と、そんな彼らの周りをふわふわと飛び回る神々の様子を見つめながら、僕は水色の袴のポケットからスマホを取り出し、念の為、今日のスケジュールを確認してみる。
すると、そこには、大きな赤い字で「雪乃森中学校修学旅行生様御一行ご来社」と書かれていた。
「そっか、今日は修学旅行生さん達が来る日だったんだ」
今は4月末。
ちょうど桜が満開になり、神社が花で彩られる……一年で一番美しい季節だ。
まさに修学旅行にはぴったりの時期の来訪に、僕は胸を躍らせながら、学生の集団に近寄っていく。
(神社についての質問や、お守りについての質問があれば、是非答えてあげたいな)
そんな気持ちで、足取りも軽く修学旅行生達の集団に話しかけようとしていた僕。
と、僕の頭上にいた境内の木々の精霊達が不意にざわめき始めた。
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