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「でも、じゃぁ……あなたは私に、大人になるまでこの地獄の中で待てというの？もっと我慢しろと？」
以前聞いた時よりほんの少しだけ感情が乗った――それでも、どこか未来を悲観しているかの様な、暗く静かな声で、僕にそう問い掛ける少女。
その声が、まるで鋭く研ぎ澄ませたナイフの様に、深く深く胸を突き刺してくる感触がして、僕は一瞬言葉に詰まる。
それでも――。
（ここで僕が退いてしまったら、もう彼女の心を救うことは出来なくなる……！）
そう自分に言い聞かせると、僕は少女に向かって、一歩前に踏み出す。
そして――。
僕は少女に手を差し出した。
「僕が、君を地獄から救い出す。僕だけじゃない。此処にいる皆で、もう君が苦しまなくて済む様にする。あの家にだって帰らなくていい！僕が両親に話して、君が暫く此処にいられる様にお願いするよ！学校だって転校とか、どうにか出来ないか色々な人に相談してみる！僕が、絶対に君を守るから。だから、どうか……僕を信じて欲しい！」
僕の言葉を聞き、とても驚いた様な表情を浮かべている少女。
彼女は溢れ出してきた涙を手の甲で乱暴に拭うと、とても小さな声でぽつりと呟いた。
「……そんなこと、初めて言われたわ。……だって、考えたこともなかったもの。転校や、引っ越しなんて。……ねぇ？私、あの家に本当に帰らなくていいの？学校も、変わっていいの？」
まるで救いを求める様な――縋る様な瞳で、少女は僕を見上げてくる。
そんな彼女に、僕は大きく頷いてみせた。
「ああ！僕達が、もう2度と君を地獄になんか返したりしない！この世界は、君が思っているより素晴らしいって……何より、君はこの世界に生きて、存在していいんだって僕達が証明してみせるよ！僕たちが、君の新しい居場所になる！」
「……私の、新しい居場所……」
僕の言葉を、自分自身に言い聞かせるかの様に、何度も反芻する少女。
彼女はやがて顔を上げると、僕の瞳をしっかりと見返してきた。
そうして――。
「……わかったわ。あなたが本当に、私をこの地獄から救い出してくれるというのなら、信じてみる。私を、命をかけて助けてくれたあなた達のことを」
そうしっかりとした口調で言い切るや、差し出した僕の手に、そっと己の手を重ねて来る少女。
初めて握った彼女の手は、白くて小さくて――とても壊れそうだった。
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