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見返したいのにトキメいて…
今さら礼儀正しい言葉遣いも、おしとやかさや美しい歩き方に美しいマナーなど全く興味がない。
いま重要なのは剣の師匠の彼にどうやって剣先を当てて見せるか。剣先を掠りもしない彼にどうしても負けたくなかった。
あの、人を見下すような憎たらしい笑顔、おちょくるような剣の交わし方、からかうような物言いが気に入らない。
なのに時々見せる素敵な笑顔やギャップのあるオチャメなところ、そして意地悪な癖に時々見せてくる優しさと逞しさが妙に気になる。
そんな彼に心を弄ばれているようで悔しくてたまらなかった。
いつか彼を見返してやる…
悔しいはずなのに近頃どういう訳か危ない思いをする度にそっと手を差し出し腕で支えてくれる時の、あのブルーの瞳になぜかドキドキしてまともに顔も見られないのが余計に悔しくてならない。
からかうような態度の彼をいつか絶対にギャフンと言わせてやる。
その思いにララは日々燃えていた。
「ほら王子様、お気をつけ下さい。」
馬に跨がろうとして鐙に足をかけると心配そうにスカイがすかさず手を差し延べて来た。
そうやって王子様と呼ぶくせに、まるでか弱い姫でも扱うかのように手取り足取りで、何も出来ないと端から決めつけているように見えて本当に悔しかった。
それが彼なりの心遣いや優しさだと頭では解っていても…。
「なぜそうやって私を甘やかすのだ?私が何も出来ぬとでも思っているのか?」
「え?」
「なぜそんな風にすぐ手を出すのだ?」
「あ…えっと…」
「これしきのこと、手を借りずとも一人で出きるのだぞ。」
「はいはい、ご立派であられます。王子様。」
まるで泣く子をあやすような声だ。
イライラしながら左手に手綱と馬のたてがみを掴みもう一度鐙に足を掛け馬に飛び乗ろうとしてやっぱりバランスを崩し落馬しそうになった。あわてて再び駆け寄ったスカイに下からだき抱えられてしまった。
「大丈夫ですか?!」
ほら、言ったそばからこの通りだ。またその腕に抱き締められてしまった。
「平気だ。構うな。」
優しく抱き下ろされてそっと地面に足を下ろす。口ではこうして強がる癖にこの顔が熱くてたまらない。
なぜかまた心臓が激しく打ち始める。
心配そうに見つめてくるその優しい瞳がなぜか照れ臭くてまっすぐ見れない。腰に回ったスカイの手のひらの辺りが熱い。
なんだ?この胸騒ぎのようなものは。この戸惑う自分の気持ちをどうしていいかわからない…。
ベットの上。目を閉じるたび思い出しドキドキして息が苦しい。
一晩中その光景が何度も頭に浮かんでは消えた。
腰の辺りの手触りの感触がよみがえる。あの心配するような瞳で見つめてくる彼の顔が閉じた瞼の裏に貼り付き耳元では彼の声が聞こえるような気がして眠れない夜を過ごした。
お陰で今朝は目の下にくまが出来てこの通り寝不足だ。
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