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ララはまた久しぶりに城を抜け出したくなった。毎日のレッスンに相変わらず息がつまるせいだ。
いつものように金貨を一つ握りしめ、トイレに行くふりをしてこっそり目を盗み、馬屋にむかった。
「おはよう。今日も頼めるか?」
馬の世話係の少年に声をかけると嬉しそうに振り返るその少年の照れた顔が少し赤らむ。
「はい、お任せください。王子様…」
すると後ろから声がする。
「何を任せるのだ?」
ギクッとして二人で振り返るとそこには怖い顔をしたスカイが立っていた。
「あ…馬の毛並みの手入れ、でごさいます。他には何もございません」
少年が手にもっていたブラシを大袈裟に見せて寄越した。
おどおどしながらララを見つめる少年にスカイがブラシを奪い睨みをきかせた。
「馬の毛艶の様子を見に来ただけだ、行くぞスカイ」
そう言ってララが誤魔化し背中を向け歩き出したその背中を見ながらスカイが少年に釘を刺した。
「そなたが知ること全て今日で忘れるがよい。
その手の中の金貨の事も。
"王子"様の秘密も。」
「はい?」
動揺した少年の怯えた瞳がスカイの顔を気まずそうに見返す。
「それからそなたの"王子"様への…」
顔を真っ赤にした少年の心の中を探るようにスカイが青い瞳でじっと見つめ憎らしげにいい放ちながら、少年の胸に叩きつけるようにブラシを返した。
「その胸に秘めた想いも、だ…」
その様子を物陰から、ベラの澄んだ目がスカイの横顔をじっと見ていた。
ララに追い付いたスカイが後ろから声をかけた。
「王子様、もうこんな事をする必要はありません。森へは私がお供致します。」
「え?」
「ご存知ですか?この事が知られたら、あの少年は生きておれぬことを」
「スカイ!?」
「大丈夫です。この事は私の胸に締まっておきますゆえ…」
すると向こうから何食わぬ顔でベラがやってきて二人に声をかけた。
「お二人でお出かけですか?」
「はい、朝と午後のレッスンの合間に森で稽古を致します。稽古は毎日の積み重ね、なのですベラ様。」
「そうですか。王子様を任せましたよ?スカイ。あれ?お二人でですか?エド様は?」
ベラが聞き返すとスカイが焦った顔を見せた。
「エ…、エド様はお忙しくておられます。お暇を見つけてまた今度お誘いしようかと…」
「そうですか…。随分と熱心であられますね、お二人とも…」
顔を赤らめたスカイの瞳の奥を覗くようにベラが笑みを浮かべながらじっと見つめ返してくるのをスカイが気まずそうに顔を背けた。
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