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気づいた?
「平気だよ。兄さん」
この兄さんにだけは唯一、気を許し女として甘えた顔を見せる事が出来た。
兄さんは自分が女である事を父母とベラ以外で唯一知っていたから。
だからこそ余計にこの兄さんには負けたくなかった。
強い姿を見せたくて最後の力を振り絞り勢いよく飛び移ったが最後にバランスを崩した。
よろけて崖から足を踏み外しそうになったところでスカイの腕が延びてきてギュッとその逞しい胸の中に抱き締められてしまった。
「大丈夫ですか?!」
頭の上から降り注ぐスカイの心地よい声が耳を擽る。途端に高鳴る胸の鼓動が身体中を駆け巡った。
間近にそのスカイの整った綺麗な顔が迫り、背後から彼の息が耳に掛かりドキッとした。
最近また少し膨らんできたこの胸にその、後ろから抱き締めてきたスカイの手が触れていた。
「あ…」
スカイの顔が少しだけ赤らむ。それを見たララも顔に熱が籠る。
「随分と華奢で細い腰回りですね」
唇の端を片方だけ上げてからかうようにそんなことを呟いた。
「で?いつまでこうしているのだ?」
胸に触れている彼のその手を掴んでそう言うと、何度も瞬きをしながらスカイが手を離した。
もしかして今、知られてしまった?この体が女だということを…。
そう思ったのは取り越し苦労だった。スカイは笑いながら服についた埃を払った。
「危うくあの谷底に落ちるところでしたね…。私まで一緒に落ちるかと思った」
おどけたスカイは、その手が触れたララの布で巻いた胸のわずかな膨らみなど全く気にする様子はない。
「今、見たであろう?ちゃんと飛び移れた。スカイがそこにいたせいでバランスを崩したのだ」
その腕に抱き締められてしまった事が恥ずかしくて照れ臭くて悔しくてそんな風に口ごたえしてみせた。
「では、そう言う事にしておきましょうか。王子様」
「ふん、本当に口が減らないやつだ」
そんな二人のやり取りをほほえましく見守りながらエドはニコニコしてやり過ごした。
*
今日も朝からばあやの厳しいレッスンによる美しく正しい挨拶の練習とお食事のテーブルマナーに、美しい言葉遣いと美しい立ち方。午後からはまた語学の勉強だ。
ばあやの指導は今日も厳しかった。早く終わらないかとさっきからそんな事ばかり考えている。
生まれてからこうして今日まで男として王子として生きてきたのに何を今さら花嫁修行だ…。
座れば自然と両足を投げ出し、豪快にまたを開く。おしとやかに座るなんてこの王子としての暮らしに必要なんかなかった。
昼下がり。語学の先生がさっきから一生懸命なにか退屈な話をしているのを熱心に聞くふりをしながらさっきの事を何度も思い出している。
あの崖にまた挑戦しよう。今度こそちゃんと飛び越えてみせる。
そして同時に思い出すのがスカイのあの素敵な声と逞しい胸元や腕…。
先生の話を上の空で聞き流しながら何度も一人、顔を赤らめた。
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