自分の役目

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自分の役目

 ここにいては王である父や后である母にまで害が及びかねない。何より大切な兄をこの穢らわしい獣の王から守らなければならない。  今日まで兄の影武者として生きてきた。こんな時のために剣も学んできた。自分の役目を果たすべき時が来たのだ。とにかくこの獣の王を城の外に連れ出さなければならない。スカイがきっと助けに来てくれると信じてる。  すっかり気をよくした獣の王が出口に向かう。ララはその隣を歩きながら脇差しにそっと手を触れた。  あの森には、底が見えないほどの深い谷底の崖がある。  目をつぶり剣の稽古をしたあの崖。  王と並んで二人で森を歩きながら自然と誘導するようにあの崖に向かった。他愛ない話をして王の機嫌を損なわないように細心の注意を払いながら。 「おい、娘、そんなに急いでどこへ行くのだ?」  獣の王が息を切らしながら後ろをついてくる。 「王様、もっと早く、早くおいで下さいませ。日が暮れてしまいます。日が暮れる前に早くあの素晴らしいとっておきの景色を王様にお見せしたいのです。」  少しでも疲れさせてやろうと獣の王の息が上がるのを見てますます踊るように早足に先を急いだ。 「これ…、娘…、少し待て…。」  背後ではぁはぁと息を切らす声が聞こえている。 「王様?どうかされました?早くこちらへいらしてください。見晴らしのいいところに早くご案内したいのです。   私がいつも見に行く見晴らしのいい場所があるのです。ぜひ明るいうちに王様にご覧いただきたいのです。」  振り返りそう言いながら前を小走りで進み、脇に差した剣のツカをギュットと握りしめた。  すぐ後ろで獣の王の兵たちも必死にゾロゾロと後ろをついて来る。 「王様?あの者たちはどこまで私たち二人の散歩について来るおつもりですか?素晴らしい眺めを見下ろしながらロマンチックに私は生まれて初めてのキスをしたいのに。あの者たちに見られるのは恥ずかしいですわ。」  そう言うと獣の王が照れた顔で答えた。  
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