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「左様か。そなた生まれて初めてのキスか。そなたの言う通りだな。
お前たちはもうついて来なくて良い、城に戻って控えておれ。」
獣の王がそう言って鼻の下を伸ばしながら家来たちを下がらせた。
二人で向かうその後をスカイが剣を携え、隠れてそっとついて来るのが遠くに見えた。
崖までやって来ると、向こうに見渡せる城下町の綺麗な街並みを見下ろした。
「ねぇ、綺麗でしょ?」
「誠に綺麗だ。
この街もそなたもすべて手に入れてくれようぞ。」
「王様ならきっとお出来になるでしょう。王様に出来ないことなど何もありませんもの。」
すると獣の王が毛深いその手を伸ばしてきた。肩を抱き、今にも口づけをしそうになる。慌ててのけぞると王が不機嫌な顔をした。
こんなにそばにいてはスカイも手が出せない。向こうで離れてこちらの様子を窺っている。
「そなた、まさか今、よけたか?」
「いえ、この剣が当たったのです。」
そう言って脇に差した剣のツカに手を掛けた。鞘から剣を引き抜こうとしたその時。
その手を掴み、すごい力で剣を奪われ遠くに放り投げられてしまった。
「このような物を女が持ち歩くべきではなかろう。」
唯一身を守れる物だったのに。あれがなくては戦えない。こんな時のために今までたくさん稽古して来たのに。
再び王の手が伸びてきて抱き締めようとした。
咄嗟に身を交わし崖の向こうに飛び移った。
「おいこら、危ないじゃないか。何をしている?」
少しずつ距離を詰めてくるスカイの姿が獣の王の背後に見えたから。
ララが急いで崖のむこうに飛び移ったのは気を引くため。王が後ろを振り返らぬようわざと可愛く微笑んで見せた。
「これ娘、危ないではないか。早くこちらに戻ってまいれ。」
獣の王が背後に気配を感じ、後ろを振り返ろうとしたのでララは焦って王に声をかけた。
今、王が振り返ったらスカイが危ない。
「王さま?早くこちらに飛び移って来て私を強く抱き締めてくださいませんか。」
下を見下ろし足がすくむ王は戻ってくるように何度も声をかけてくる。
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