自分の役目

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「まさか王様?怯えていらっしゃるのですか?私に出来て王様に出来ないことなど無いと思っておりましたのに。   これから嫁ぐ先の王様に限って、私に出来て王様に出来ない事など、あり得ませんもの。  こちら側のほうが見晴らしがいいのです。眺めのよいこちら側で王様と想い出の初めての口づけを交わしたいのに。」 「そうか、こんなの容易いことだ。この私に出来ぬことなど、無いのだ。」  そう言って王が跳び、体を宙に浮かせこちら側に足を下ろす寸前でその大きなふてぶてしい顔を支える首の下の厚い胸を両手で押し返した。 「おい、何しやがる!」  そんな声も虚しく、バランスを崩した体は宙に浮いたまま反対側の地に足を掛ける間もなく崖の下にまっ逆さまに落ちていった。醜い巨体がぐんぐん落ちていきだんだん小さくなっていくのを上から見下ろした。  谷底に落ちる瞬間、目を閉じた。目を開けるのが怖かった。  しばらくそこで目を閉じたまま震えながら立ち尽くしていると剣を構えたスカイが叫んだ。 「ララ様!!大丈夫ですか?」  崖の下で動か無くなってる獣の王の背中を彼も見下ろした。 「死んだわ。 震えが止まらない。」 「多くの民を苦しめてきた憎き悪い王です。きっとこうなる運命だったのです姫様…。」 「でも、私がこの谷に突き落とした。」 「王は自分から飛んで落ちたのです。これは事故です。か弱い姫様に獣の王が殺せるはずがありません…」  死なせてしまったショックに泣きながら抱えられるように城に戻る途中。   どさくさ紛れで聞き流してしまったけれど…。  確かに彼は私を姫様と言った?  王子様でなく姫様と言った?  王子様でなくララ様と初めて名前で呼ばれた?  確かにあの獣の王を外に誘き出すためにあんな風に姫だと打ち明けてしまったのだけれど…。  城に戻り、王が崖から落ちた事を家来たちに告げた。ただ震え、泣くばかりのララに変わってスカイが獣の王の家来の皆に説明をした。獣の王の家来たちが慌てて城を出ていった。  そうして姫ばかりを拐っていく獣の王がこの世を去り、近隣の姫たちが無理やり拐われることは無くなった。  お陰で多くの姫たちに平穏な暮らしが訪れたのだった。
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