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彼の口からどんな言葉を聞きたかったのだろう…。
だけどそれ以上、問いただす事はしなかった。
お互いに、その先には触れてはいけないような気がしたから。
この胸の内の密かなその想いにも。
「なんだ。一生懸命隠してたのに。女だってこと。ついにそなたにバレてしまったのか…」
ララは敢えて不貞腐れながら減らず口を叩いてみせた。
自分が女である事を知られ、なぜか嬉しい半面。気づいて貰えない何かにがっかりしている…。
あんな想いをして夜も眠れず目の下にくまを作るほどドキドキして一睡も出来なかったなどとは、口が割けても言えない。
「大丈夫です。相変わらずやんちゃなその姿はどこから見ても男みたいですから。」
「ひどい。そこまで言わなくても。」
「それは失礼いたしました。つい本音が。」
相変わらずそう言ってからかってくるスカイのその優しい瞳が見つめ返してくる。
ララの胸はまた高鳴り、ドキドキしている自分をなんとか抑えた。
その澄んだ耳に心地よい声も。輝くような笑顔も。突き刺すような切れのある視線の美しい青い瞳も。
彼のその全てがララを惑わしていく。
決して許される事のない恋路へと導かれていく。
その逞しくあたたかい腕で体を支え、その胸に抱き、何度も助けてくれた。あの腰に回った腕の感触が今でも恋しい。
あの包み込むような眼差しにずっと見つめられていたいのに…。
あの声をそばで聞いていたいのに…。
彼は単なる私の護衛で、剣術の師匠だ。無事に隣国の王子の元へ妃を連れて行く為に彼はここにやって来た。
その務めはまもなく終わろうとしている。
こうして彼がそばにいて仕えてくれるのは、気がつけばもうあと僅かだ…。
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