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良き姫になるために
生まれた時から今までどこに行くにも何をするにもこのばあやがそばにいた。
この城内でずっと王子として疑うこともなく過ごしてきた。幼い頃は自分も兄と同じ男だと思っていたから。
王家の一員として時々城下に降りパレードをしては民衆の前に顔をみせた。そんな時はいつも王子として姿をみせた。時には兄である第一王子のエドの身代わりとなり自分の責務である影武者として第二王子の務めを果たした。
そんなララは生まれた時から男として育ったせいか、言葉遣いは乱暴で振る舞いも粗っぽく、とにかく気が強かった。
男として王子として生きてきたやんちゃなララを、なんとか女性らしくするために。近頃では将来の花嫁修業として人目を避けながら礼儀作法や女性らしい振る舞いを学ばせるべく、乳母のベラは日々奮闘していた。
将来のため、立派なお妃様になるために。ばあやとララのそんな毎日が嵐のように過ぎ去る。
*
「ばあや、ばあや?着替えはどこ?」
朝からララの大きな声が響く。
「はい、ただ今…」
生まれてすぐに隣国からやってきたこの世話役の乳母のベラに身の回りの世話をされながらこうしてララは自由にのびのびとすくすく育ってきた。
双子のように見た目がそっくりな兄とこのララは一見するとどちらがどちらか見分けがつかない。親である王や后でさえも見まちがうほどだった。けれどその性格はまるで正反対だった。
黙って口を閉じそこに佇んでいると、その姿を見ただけではどちらがどちらか見分けられなかった。時々入れ替わると、誰も周りのものは気がつかない程だった。
そんな二人の事を見た目だけで見分けられるのは、不思議な目を持つこのベラただ一人だった。
幼かった王子様たちもやがて年齢を重ねるごとにより美しく立派になり、その顔や姿は誰もが羨むほどに成長した。
そんななか、近隣国では谷の向こうの国の姫ぎみがまた一人、野蛮な獣の王に先日連れていかれたとの噂でこのところ城内は持ちきりだった。
ララにその魔の手が伸びぬよう、いつもそばから離れずベラはその何でも見通す不思議な目を光らせていた。
「ララ様、早くお支度をさないませ。今日はひるげの後、書物のお勉強の先生がおいでになります。読み書きの宿題が沢山残ってますゆえ、この後すぐに取りかかって下さいませね。」
「あー、わかったからもう言わないでよい。毎日息がつまる。」
時々ばあやのこの目を盗み、城から抜け出して森に行く度にララはこっぴどく叱られるのだった。
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