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「ララ様!近頃物騒な噂も耳にしますゆえ、森に一人で行くのはお控えくださいませ。
隣国より参ります、武術に長けたララ様専属の護衛の者が本日到着いたします。明日は誕生を祝う宴が控えておりますゆえ…」
「あー、もう。朝から煩いったら。ばあやは少し黙ってて。」
「暮れぐれも粗相のない様に。それと、何度も言うようですが決して周りの者たちに姫であることを悟られてはなりません。人前ではあくまでも王子としていらしてください。よろしいですね?」
「わかってるってば。
ホント息がつまる。」
こんなに口煩いばあやの他に護衛まで付くだなんて。どんな怖くて頑固なじいやが来るんだろう。ますます息がつまるに違いない。
畳み掛けてくるようなばあやの念を押す言葉に今にも押し潰されそうだ。
こんな時はまた気晴らしに森へ行こう。あの柵の隙間からこっそり城を抜け出して…。
いつも街から食料を仕入れてくる仲のいい馬屋の世話係の少年に金貨を握らせてやると、こっそりと城郭のアーチの門の外の物陰に馬を用意してくれた。
ララはまた今日もそうしていつものように馬屋の少年に金貨を握らせると、柵の隙間から抜け出した城の外で待ち合わせをして少年から馬を借り、こっそり一人で森に向かったのだった。
城下の森は城の所有地で安全だ。あの大きな塔のある城壁に囲まれた跳ね橋門を越えてこの森の外からやって来るのは大概、招かれた客か食材などを仕入れる下働きか街の商人くらいなのだから。
高い塀に囲まれた城の森はララの唯一自由に飛び回れる遊び場だった。
「息がつまるこんな日は、気晴らしが必要なの。」
ぶつぶつそんなことを呟きながらいつものようにその日も森に繰り出したのだった。
あんなところであの彼に会うなんてその時は思ってもいなかったから…。
そして今…。あろう事か目の前にその彼がいる…。
*
「王子様、初めてお目にかかります。」
そう言って挨拶を交わし頭を下げた男が顔を上げ、目が合うと一瞬その瞳が揺れたように見えた。
そのブルーの瞳と目があった瞬間、一気に空気が凍りつく気がした。
森であったあの美しい若者だ…。
誕生を祝う式典を明日に控え隣国より腕のたつ護衛の者が来る事はばあやから聞いていた。その護衛が剣術の師匠になると言っていたし、年のいった男を想像していた。こんなにも若い男だったなんて。しかも目を見張るほどのハンサムだ。
森で私を娘と呼んだあの若い男。ここまで案内してきた私を、下働きの娘だと勘違いしていた…。
「お目にかかれて光栄です王子様。本日より隣国の王からの命をうけ、王子様の護衛と剣術の指導をさせていただきます。スカイと申します。どうぞよろしくお願いします。」
森で会ったその若い男は、初めて会ったかのように淡々と挨拶を交わした。
さっきの彼のあの一瞬の戸惑ったような瞳は気のせいだったのだろうか。
何も森での事は聞いてこないし、私を見て何の迷いもなく”王子様“とそう呼んだ。
気のせいか。きっと気のせいに決まってる。いま彼の目の前にいるこの私はどこからどうみたって兄君にそっくりな弟の第二王子なんだから…。
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