01.「……私は、でぃ、ディアドラ、と、申し、ます……」

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(あと、少しだわ)  壁にかかった古い時計を見つめて、この離宮の主――ディアドラは、心を弾ませた。  ここはダウエル王国の王城……の、敷地の端にある離宮。  王城の外観が煌びやかなのに対し、この離宮は古びた風貌をしている。もちろん、内部も似たようなものだ。  少し歩けば床がきしみ、扉は歪んでいて開けるのも一苦労。壁も場所によっては塗装がはがれており、見るも無残な状態である。  この離宮に住んでいるのは、この国の第五王女であるディアドラ。そして、年老いた使用人が三人。  それ以外の者は、ほとんどここを訪れない。むしろ、来ないほうがずっといい。ここに誰かが来るときは、ディアドラをストレスのはけ口にしたいときなのだから。  ただ、最近は少し違う。 (早く、スペンサーさまに会いたいわ)
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