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昨年の夏。
九十になる直前の母が、亡くなった。
私は、五十を過ぎた未婚の漫画家だ。
そして、私は、三人きょうだいの末っ子で、母さんっ子だったから、お葬式の後、きっと、すごく悲しくて落ち込むだろうと、思った。
お葬式は、家族葬で、私たちきょうだい三人だけの簡素なものだった。
それから、お墓のあるお寺で、お経をあげてもらった。
私は、そのお経を聞きながら、お坊さんの隣に飾ってあった、綺麗な曼陀羅をぼんやり見ていた。
曼陀羅の中心には、大日如来さまがいた。
その夜。
私は、母のいなくなった家で、一人、寝ていた。
枕元に、誰かが、いる気配がした。
「お母さん、、?」
私が、呟くと、その誰かは、私の目の前に来た。
「いいえ。大日如来です」
イケメンの仏様が、私の前にいた。
私は、びっくりして、飛び起きようとしたけれど、体が動かなかった。
「びっくりさせましたね、、。でも、私は、いつも、あなたと共にあります」
イケメン大日如来さまは、言った。
「この世の、全ての苦しみと共にあります。だから、一人ではありませんよ」
大日如来さまは、そう言うと、霧のように白くなり、天に向かって消えた。
私は、夢を見ただけかもしれない、、。
ただ、私の言って欲しかったことを、仏様の姿で、誰かに、言って欲しかっただけかもしれない。
しかし、この話を親友にすると、彼女は、しみじみと頷いた後、笑って言った。
「イケメンだったの? 仏様まで」
私は、ずっと、イケメンばかり描き続けてきたから、大日如来さままで、イケメンのお姿で、出て来て下さったのだろう、、。
そう、思うと、なんだか、可笑しくて、そして、胸があたたかくなったのだった。
end
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