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「やぁ、お疲れさま。君もなかなかに研究熱心だね。まったくもって頭が下がるよ。それが例の人類必須の研究かい?」
甲氏は乙女史の部屋を訪ねるなり、彼女の研究姿勢に賛辞を贈る。
「やっとあなたにもわかってきたみたいね。そうなの。これは人類が豊かに暮らすために必須の研究なのよ」
乙女史の目がランランとしている。彼女は興奮を抑えきれずに語り始めた。
「もう少しなの。もう少しで何かが掴めそうな気がするのよ。それさえわかれば実用も夢じゃないわ。人類はもっと豊かに、そして楽しく暮らせていけるはずよ! それだけじゃないわ。新しいコミュケーションのツールにもなると思うのよね。そのためには―――」
「―――でどのような実益が出るんだい?」
甲氏が故意に乙女史の話の腰を折る。
乙女史は甲氏のそのような発言の仕方が嫌いだ。
「また、その話? 実益、実益っていうけどね。そんなのは実用化してからの話でしょ? 私がやっているのは基礎研究なんだから」
発言の仕方のみならず、その内容も気に入らない。
「まぁ、それはそうなんだが。これからはそうもいかないんだ」
「なんでよ?」乙女史は文字通りに口が尖がっている。
「君も知っての通り今度のボスは丙氏なんだ」
甲氏は部屋中に散らばっている木片をひとつ拾い上げる。他にも見たことのない金属片やらが落ちているが、これらは彼女が研究で扱っている素材らしい。
「知っているわよ」乙女史はため息をつく。「丙氏は実益の出る研究しか進めない考えらしいわね」
乙女史の語気からは怒りのみではなく、軽蔑の感情も入り混じっているのがわかる。
「あなたが言いたい事はわかるわ。もっと実益の出る研究をしろって言うんでしょ? そうじゃないと経費も回ってこないってこと?」
「まぁ、資産管理を任されている僕の立場からするとそうなるかな」
「わかったわ。でもその前に丙氏と少し話をさせて」
「いいけど―――」
「ありがと。じゃあ早速、説得しに行くわ。私の研究の価値を分からせてあげる!」
そういうと乙女史は部屋をあとにした。
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