遮断機の向こう側にはだいたい君がいる。

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 夏。暑い。ろくに働いていない頭でそう考えながら自転車をこぐ。いつもの通学路。今日は君はいるのだろうか。  踏切の少女と出会ってから数か月が経った。いまだに進展はない。進展する気がしないといった方が妥当だろうか。僕は彼女の名前すら知らない。  急ブレーキを引く。もう踏切があるところまで来ていた。ボーっとしすぎた。いつもは踏切の左側を通るのに今日は右側まで来てしまった。相変わらず踏切は鳴いていて、電車が通り過ぎている。  すべての電車が通り過ぎたとき、いつもの少女が自転車を連れて遮断機の向こう側の正面にいた。  遮断機が開き始める。  そのとき初めて彼女と目が合った。  彼女は視線を下におろした後、歩みを進める。僕は一歩遅れて歩みを進め始める。そして僕の右側を彼女が通り過ぎていく。  踏切を渡り終えると、僕はすぐに自転車にまたがり全速力で自転車をこぎ始めた。右の通路に入る。  恥ずかしかった。だけど嬉しかったんだ。彼女と目が合ったことが。たまらないほどに。  それ以上進展しないと思っていた関係がかすかに動いたことに。
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