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もうとっくに騙されて“洗脳”されてしまっているみんなを救うには、レナが自らベラを倒すしかない。しかし、ベラは歴代のアメジスト家でも屈指の才能を持つとされる魔女である。運動神経も良く、下手な成人男性よりも力もあるし足も速いという。格闘術も学んでいて、暴漢数人を一人で瞬殺したこともあるのだとか。
真正面から戦って、勝ち目がある相手ではない。
魔法でも、身体能力でも、自分は彼女に遠く及ばない。そして、自分が成長するのを待っていては兄と彼女の結婚を止めることができない。
ならば、禁じ手を使ってでも、止めるしかあるまい。
真正面から戦って勝てないのなら、搦め手を。洗脳したエリス自らに、裏切りの魔女を倒させるしかない。
――レナはきっと、お兄様の心を傷つけ、苦しめることになる。でも……たとえ傷つけてでも、レナはこの家を守りたい……!
仮に暗殺に失敗しても。衆人環視の元、自らの手でベラを撃ったともなればエリスも引くに引けなくなるだろう。自らの手で婚約解消することもありうる。いずれにせよ、アメジスト家と、ベラとの関係を断ち切れるならそれでいい。
そう、そのためには、絶対必要なのだ。
洗脳の魔法が。人を操り人形にできる術が。それは確かに、Aランクの魔導研究書の棚にあるはずだというのに!
――なんで、ないの……!?おかしい、こんなのおかしいわ。これじゃ、まるで……誰かが予め本を抜いていったかのような……!!
そんなはずがない。
そもそもこの書庫に人が入ること自体稀。父が自ら時々掃除に訪れるだけで、家族も新しい本を入れる時くらいしか入ろうとは思わない場所であるはずなのに。
「くそっ!」
やっぱり、見つからない。レナはイライラしながら取り出した本を全て戻すと、踵を返した。今日は、父は研究室にいるはず。うまく誤魔化して、魔導書の在処を父に訊き出せないものか。もしくは何らかの事情で、父が研究のために研究室に持ち出しているなんてこともあるはずだ。
ところが、扉を開けて飛び出した、その瞬間だったのである。
「探し物はここにはないぞ、レナ」
「!?」
廊下に、一人の女性が立っている。
青いドレス、緑色のボブカット、紫色の瞳。まるで男のような喋り方をするアルトボイス。彼女は。
「……なんで、あんたがここにいるの」
レナはぎろり、と彼女を睨みつけた。ベラ・アメジスト。まさにレナが倒そうと思っていた魔女。彼女がサファイア家の屋敷に遊びに来ることは珍しくないし、今日ここにいてもおかしいことではない。でも。
中に入ってはいないとはいえ、魔導書を収めた地下室の前にいるのは何故なのか。
しかも、まるでレナを待ち伏せしていたかのような。
「君に用があって来た」
ベラは静かな声で告げる。
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