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「それから。……君を、助けに来た。本当は教団の人間が君に接触することを防ぎたかったのだけど、どうやらそれは失敗してしまったようだから。一体、あそこの大人に何を吹き込まれたんだ?」
まるで、何かを噛みしめるような声。
同時に、教団、と言う言葉出てきた。ということは、目の前の女性は知っているのだろう――レナが宗教団体“生命の剣”の人と接触している、ということは。
「生命の剣、の人とレナは関係ないよ。ただ、困ってたみたいだからレナが相談に乗ってあげただけ。サファイア家の人とお話がしたいのにすぐ追い出されちゃって、お話も聞いてもらえないのが辛いって言ってたから」
嘘ではない。レナが教団の紫色の傘と服の女性と出会ったのは、彼女が屋敷の周辺で困った様子でいたから。あの時は丁度警備員もいなかったし、話だけでも聞いてあげようとレナは彼女を招き入れたのである。
人に優しい人間になりなさい。親切な人は、みんなに愛される。――それが、大好きな兄の教えだった。レナも、エリスに認められるような優しい人間になりたい。そう思って、困っている人の相談に乗ってあげようと思ったのである。
教団の女性は、ノルマをこなせなければ階級が上げられないことに悩んでいたらしい。特に、最近はちっとも新しい人を勧誘できず、先輩たちからお叱りを受けているのだという。
だから、レナは気の毒に思ったのだ。神様が本当にいるかどうかなんてわからないし、彼女たちの神様を信じているわけでもない。でも、自分のようなちっぽけな人間でも、誰かを助けることができると信じたかったのである。
貴族の人間を勧誘できると、一気にポイントが上がるらしい。
何もしなくていいから、名前だけ貸してくれないかと言われた。そんなことでいいならと、レナは入会書にサインをしたのである。
だから、書類上はレナも“生命の剣”の教団員だが、実際に彼らの教会に足を運んだことはないし、教主様とやらに会ったこともないのである。ただ。
「レナが、入門書に名前を書いてあげたら、その人は凄く喜んでて。お礼に、レナの相談に乗ってくれるって言ったの。だから、相談に乗って貰ったの、それだけ」
そう、本当にそれだけだ。
レナが感じていた漠然とした不安や小さな悩みを、彼女に聞いて貰ったのである。
「だから、あの人がレナに何かしたわけじゃない。騙されたとかじゃないわ。これはレナの意思。あの人はちょっとだけ助けてくれたの……レナの使命に、気づかせてくれたのよ」
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