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アマンダに、ベラを排除し、己の愛と家を守るべきだと伝えられた。マリアの仇討ちをし、兄を裏切者の魔女から守るためだと。
それが、彼女の神様の教えに則った考えであるのはわかっていた。しかし彼女に熱心に説かれるうちに、レナ自身もそれが真実だと思うようになっていたのである。
実際、マリアが死んでからのベラはおかしい。あれだけ仲良しに見えたのに、何故彼女の死をろくに悲しみもせず、平然と過ごすことができるのか。それは、彼女にとってマリアが邪魔でしかなかったからではないのか。
「あんたに、お兄様はあげない。そして」
レナは護身用のナイフを鞄から取り出すと、それを構えた。目の前の、憎たらしい魔女に。
「この家は、レナが守るの!マリアの仇は、レナが取るんだから!」
「……レナ」
そんなレナに、ベラは静かな目を向けてきた。こちらはナイフを構えていて、向こうは丸腰。対格差も力もあちらが上だが、それでも凶器を向けられていることに多少なりの恐怖はあるはずだった。人間ならばそれが当たり前だ。
それなのに。ベラは一歩、レナの方に進み出てきたのである。そして。
「君の最大の過ちを教えてやる。それは」
さらに、一歩。
「誰かに相談せずに、一人で解決しようとしたことだ。本当は、苦しかったんじゃないのか。兄の婚約者を疑って、その秘密を抱え込むこと。自分一人で、この家を守らなければいけないという重圧に」
「……っ」
「もちろん、君の思想は……その教団の女性にかなり誘導・洗脳された結果だと思う。でも、君が真剣に悩んで考えたことを馬鹿にするほど、君の家族は浅はかだろうか。君との間に信頼はないんだろうか」
「そ、それは……」
「私のことが信じられないなら、それでもいい」
ベラは何故か一歩も怯まない。一歩、また一歩。彼女の真っすぐな目が眩しくて、どこか恐ろしくて、気づけばレナの方が後退ってしまっている。
そうだ、今なら彼女も油断しきっているし、このまま刺してしまってもいいはずなのに。
「でも、君は。君の家族のことは信じるべきだった。洗脳の魔法なんて使って、心を捻じ曲げるより前に。君の話を信じて君に協力してくれたなら、家族は私を追い出すことや殺すことに手を貸してくれたかもしれない。それなら、こっそり魔法を持ち出すなんて危険を冒す必要はなかったはずだ」
何より、と。彼女の目が険しくなる。
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