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この国は、魔法の力によって守られ、保たれている。
王様を守る“国家特任魔術師”たちは、それぞれ貴族の地位を与えられ、魔法を研究するための特別な支援を受けている。ベラの家であるアメジスト伯爵家もそう、エリスのサファイア伯爵家もそうだった。
王家と魔法使いの家は、その証として宝石の名前を与えられているのだ。
他にもいくつか魔法使いの家があり、それぞれの家が国を守るための魔法を日々研究し続け、有事の際は軍隊と一緒に他国と戦うことになっている。国から莫大な援助を受ける見返りに、魔法使いたちは命を賭けて国に尽くすというわけだ。
それぞれの家は、共に国を守る同志であると同時にライバルでもあった。
新しい魔法を開発できない家、戦場で戦果を挙げられない家は資格を取り上げられてしまうこともある。
それぞれの家は他の家と結びつき、時には競い合うことで発展を続けてきたのだが。
「……はあ」
今からおよそ八年前。ベラがまだ十二歳の頃のことだ。
父が常にため息をつき、食事の席でも鬱屈した表情を浮かべていたのをよく覚えている。目の下に隈。また徹夜で研究室に籠っていたのは明らかだった。私は姉のサラと顔を見合わせ、次に母を見た。母は困ったような顔をして、静かに首を横に振ったのだった。
「あなた、研究が行き詰っているのはわかります。でも、子供達の前ですよ、あまりため息ばかりつかないでください」
「ああ……すまない」
母の言葉に、父は沈み切った声で答えたのだった。
それぞれの家には、定期的に国から“こういう魔法を作ってほしい”という依頼がかかる。魔術師の家はその依頼を受け、雇った研究者たちとともに新しい魔法を開発し、その成果を国に報告するのだ。
よその国と戦っている時は、戦場で成果を挙げれば一定以上の評価を得られる。しかし、平和な時代はこの“国の依頼をいかに達成できるか”が唯一無二の評価点となる。この依頼がきちんとこなせない家は評価を下げられ、場合によっては魔術師の地位を剥奪されてしまうことになるのだ。それは、貴族の暗いを失うことをも意味している。
仕事と地位を失わないために、家長である父は日々プレッシャーの中研究を続けていたのだった。
「お父様、そんなに今の依頼、難しいの?」
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