<1・Accident>

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 ベラの問いに、まあねえ、と父は苦笑いで答えた。 「必要な技術なのはわかるんだ。しかし、どうしても空間と時間を繋ぐ方法が……既にある魔法を応用すればどうにかなると思っていたんだが、なかなかうまくいかなくて」 「空間?」 「ああ。物体を転送する魔法なんだがなあ。どうにも、ごく僅かな質量、短い距離しか転送できない。場合によっては、転送先で大きく欠損することもある。この魔法が確立できれば、この国の輸送事情は大きく変わる。配送業者だって楽になるだろう。手紙のようなものだってすぐに送れるようになるかもしれない。……が、これが本当に、本当に難しくて……」 「そっか……」  長いアメジスト家の一族の中でも、ベラと姉のサラは魔女としての才能に恵まれていると言われていた。しかし、それでも当時ベラは十二歳で、姉も十五歳。まだまだ一人前の魔女には程遠い。  父がものすごく難しい研究をしているというのはわかっても、それに対する解決策など思いつこうはずもなかった。むしろ、それがすぐ思いつくようなら父がここまで悩むはずもなかっただろう。 「……あのね、お父様」  だから、当時のベラに言えた言葉は、こんな程度のものだった。 「頑張ってるのはわかるよ。でも、徹夜は駄目だよ。お父様が倒れたら、それこそ研究が滞っちゃう。しっかりご飯食べて、しっかりお風呂入って、ちゃんと寝ないと。みんな、心配してるんだよ?」 「……はは、そうだな。ありがとな、ベラ」  父はそう言ってベラに笑いかけてくれたが、事が深刻であることはベラにも予想がついていた。  近年、アメジスト家は成果を出せていない。  前の依頼も達成できなかったことをベラは知っている。恐らく今回成果が出せなければ、本当にこの家の地位が危うくなってしまうところまで来ていたのだろう。  己にも、出来ることはないか。なんでもいい、ヒントとなるものがあれば。  魔術師の家の子供は、初等部相当の年では学校ではなく家庭教師に勉強を見てもらうことが多い。ベラもそのうちの一人で、家庭教師の時間以外は家で自由に過ごすことができていたのだった。もとより、お転婆な性格と言われるベラである。空いた時間は屋敷を抜け出して、ひらすら町を歩き回り、父の手伝いとなる材料を探して回ったのだった。
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