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<2・Panic>
エリスと出会った、まさにその翌日のこと。
『お母様、私、好きな人ができました!』
『x3もくぃj4c@んmq4r、0vcqj504t!!?』
ベラがそう言った途端、母はその場で派手にすっころんだ。ああ、いや本当に見事なスッ転びっぷり。カーペットの上とはいえ顔面から落ちたので、大分痛かったとは思うのだが。
『おおおおおおおおおおおお奥様ァ!?』
メイド頭のジョアンナ(アメジスト家に四十年以上前から務めてくれているベテランのメイドだ、今年で六十二歳になる)が血相を変えてかけつけてくる。彼女に助け起こされながら咳き込んでいる母を見て、ベラは不思議に思ったものだった。自分、そんなおかしなことを言っただろうか、と。
『……お母様、そんな漫画みたいな転び方しなくてもいいと思います。ドジっ子キャラですか?さすがに四十歳でそれはちょっと……』
『だ、誰のせいだと思ってるの、もうっ!』
ベラに言われて、母はひっくり返った声を上げた。そのままずさささささささ、と四つん這いのままベラの元に這ってくると、正気なの!?と告げてくる。
『ベラ、貴女……一応は、それはもう一応はだけれど、アメジスト伯爵家の娘という自覚はあるのよね!?』
『あります。でも結婚はお姉ちゃんがしてくれるからいいじゃないですか。お姉ちゃん、伯爵家の次男さんをお婿に貰う予定なんでしょ?お相手の方も仲良さそうだし、子供たくさん作る予定だーって言ってたし、じゃあ私は好きな人と好きなように恋愛してもいいですよね?』
『あのねえ、そういう問題ではないのよ!?』
ベラの肩を掴み、がっくんがっくんと揺さぶる母。
『わ、我らが魔術師の家系にとって、結婚ってのはただ男女が結ばれて子供を作るだけの話じゃないの!家同士の結びつきを深めるために必要なことなの!だ、だから、将来結びつきを深めるに相応しい家と婚姻を結ばないと、落ち目の我が家の未来がないのよー!?』
『落ち目なの、王様の無茶振りのせいじゃないですか。大体、結婚だけで家同士の結びつきを深めるって、結構時代遅れだと思いますけど?普通にビジネスすればいいでしょ、ビジネス。何も親戚同士になる必要ないですって』
『だからってね、変な家の子と結婚なんてして、世間体とか外聞とかね……』
『そういうの全然興味ないです、最終的にお姉様か私が魔女としてきちんと研究に従事すればいいでしょ?でもって、私達の子供にもちゃんと魔法を伝えていけばそれでいーじゃないですか。大丈夫です、いじめられても私は平気です。アメジスト家が落ち目だとかいって余計なこと言ってくるご近所の子もいましたけど拳一発で黙ら……きちんと、丁寧に諭してお帰りいただきましたから!』
『今拳一発だ黙らせたとか言おうとしたわね!?』
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