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そう、ベラは昔からそういう性格だった。お淑やかな姉とは似ても似つかない、アグレッシブな性格。
具体的には、喧嘩売ってきた男子がいたらあいさつ代わりにとりあえず股間を蹴り上げるくらいは普通にするくらいである。でもって。
『え、話し合い?そんな面倒なことしたくないぞ。わかりやすく暴力で解決しようじゃないか、うん!』
と、あっさり言ってのける始末である。
子供の頃の自分は、少々浅慮だったな、と大人になった今は思う。今だったなら喧嘩するにしても、もう少し親にバレないように丁寧に脅すなり隠すなりしたというのに――いやはや。
まあ、とにかく。
ベラは伯爵家令嬢とは思えないくらいに、けんかっ早いし元気が良すぎる性格だったというわけだ。体格もやや長身であったが、それ以上に身体能力が全般的に高かったのである。特に腕力は、同年代の少女達とは比較にならないほど強かった。父いわく、魔力の使い方が上手くて、一部を身体強化に無意識に使えていたからではないか?とのこと。実際、喧嘩をして男の子を泣かせたことは数知れずだったが、泣かされたことは一度もなかったのである。
『まあつまり。お姉様がお婿さんを取るわけですから、私は別によそに嫁入りしてもお家的には大丈夫じゃないですかね』
『ああもう、ああ言えばこう言う……』
そんな娘が、いきなり“好きな人が出来た”とか宣ったわけである。母がどれだけ胃の痛い思いをしたのかは想像に難くない。
『……貴女に、淑女らしいお淑やかさや上品さを教えるのはもう諦めましたけど』
こめかみを抑えて、彼女はどうにか椅子に座り直した。
『それはそれとして……ああ、貴女がまさか、恋をしたなんて言い出すなんて。お相手にどれだけ迷惑がかかることか』
『お母様?実は一番心配してるのはそこですか?私の心配はしてないんですか?』
『ゴリラ並に丈夫な貴女はわりとどこでもやっていけると思ってるので心配はしてません。お母さんが心配しているのは家の未来とお相手の迷惑だけです」
『うわハッキリ言った……』
ここまでドストレートにぶつけられると、ベラももはやツッコむ気にならない。まあ今まで、それだけのことをしてきたという自覚は自分にもあるけれども。
『それで、ベラ、お相手はどちら様?どこで会ったの?』
『えっと、公園の前の道路……あ』
そこでベラは、自分がとんでもないミスをしていたことに気付いたのだった。
あの、青い宝石のような眼をした優しい男の子。あの子に一目惚れしたはいいが、苗字を聞くのをすっかり忘れていたのである。
そこそこいい服を着ていたし、公園は上流階級ばかりが住む二番街に存在している。良い身分であるのは間違いないあろうが。
『……苗字聞き忘れた。どうしよ』
あっさり宣う私に、母はがっくりとテーブルの上につっぷしたのだった。
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