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流行りのうた。
昔のうた。
アニメソング。
海外のうた。
演歌に民謡。
うたには、色々ある。
楽しいうた、せつないうた。
恋愛のうたに、友情のうた。
全部ぜんぶ、わたしは大好きで。
よく聴いて、よく歌っていた。
だけど………………。
『うたを全面禁止します』
歌うことが嫌いなおうさまのせいで、
この国からうたがなくなってしまった。
市場を盛り上げていた曲も。
かなしいときに、寄り添ってくれた曲も。
別れてしまった彼との、思い出の曲も。
ぜんぶぜんぶ、無くなってしまった。
『他の国に行くことは許されない。破ったら、分かっているな?』
あぁ、
たいくつだ。
くるしい。
かなしい。
たのしくない。
わたしの、せかいが
----------閉ざされた。
はぁ。
溜息が出る。
先代はうたが大好きだったのに。
よく、うた会を開いてくれていたのに。
はなうた1つ、許されない。
うたいたいなぁ。
うたを制御して、国民の金を湯水のように自分の為に使い、気に入らないことがあれば処す。
そんな王さまのために、働くのが、お金を献上するのが馬鹿らしくなる。
でも、仕方ない。
自分の楽しみがなくなってしまっても。
この国で、世界で生きていかなければならないのだから。
………………え。
うたが、聴こえる。
そんなはずはないのに。
からだが、悪くなっちゃったかなぁ。
でも、やっぱり聴こえる。
間違え、だ。
とは思うけど。
確かめてみたくなった。
ゆめでも、げんかくでも、まちがえでも。
何でもいい。
久しぶりに、楽しい気持ちになったのだから。
それだけは、変わらない事実。
「………………間違えじゃ、なかった」
近所の公園。
歌声が聴こえる。
でも、歌っているひとは見えない。
どこにいるの。
かくれて、うたっているの?
もう、なんでもいいや!
つられて、うたが口から滑り落ちた。
歌ってしねるなら、本望!
ああ、たのしい!うれしい!
息ができてる。
生きてるって、実感する!
「お前、うたを歌っているのか!」
ああ
見つかってしまった。
でも、止められない!!!
わたしは、うたがだいすきなの!!!
久しぶりに、感じるこの気持ち。
うたが嫌いなんて、もったいないわ。
かわいそうね、王さまは。
この楽しさを知らないなんて。
「………………」
ギャラリーが集まってきた。
中には、王さまもいる。
にっこりと、笑いかけた。
悔いはないわ。
さいごに、歌えたんだもの。
大好きな曲を、こんなに沢山の人の前で。
「お騒がせいたしました」
一礼をして、王さまの前へ。
「咎は受けます。行きましょう」
抵抗はしない。
「……………………」
だけど、彼はわたしをただ見つめた。
「あの」
付き人のかたも、困惑している。
「すまなかった」
小さなつぶやきは、風に乗って消えてしまった。
「今、なんと?」
「すまなかった。…………………感動した」
え。
感動?
「俺は、うたが上手くなくて。嫉妬と悔しさで身勝手なことをした。だけど、間違いだと気づいたよ。うたの上手さは、音に合わせることじゃない。うたを愛すこと。自分の感情をどれだけ乗せられるか、なんだな」
きみを見て、学んだよ。
「王さま」
「………………まだ、俺も変われるだろうか」
「はい!もちろんですわ」
あれから、数カ月。
街は今日も賑やかだ。
そして、わたしは今日も。
うたを歌っている。
あの日の姿なき声と一緒に。
「ありがとうね」
正体は分からない。
でも、それでいいのだ。
伸びをひとつ。
「さ、仕事がんばりますか!」
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