星彦と姫織の出会い

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籠のぐらつきは無事に直り、星彦は精霊の力によって首の傷を一応は 止血されてから、貴族界と戻って改めて、病院で治療を受けた。 突かれた首は静脈は反れていたが、少し喉がかすれてしまっていた。 「姫織様に声をかけた?それでよく生きて戻ってこれたなあ。 突きが深かったけど、傷口は小さいから大丈夫だ。 声帯も損傷は無いので、いずれ普通に喋れるようになるよ。 それから、この鉄分の錠剤を飲みなさい。しばらくは安静にね」 大病院の整形外科医の初老の男、田岡(たおか)が診察と治療を終えて 茶色い小瓶を差し出してきた。 「鉄分の錠剤?またずいぶんと珍しい薬ですね。 田岡先生は、たまに謎なモノを出してきますよねえ」 白髪の短髪でサラリとした前髪をセンター分けにしている田岡が 銀ブチ眼鏡を光らせながら不適な笑みを見せた。 身長176センチで細身の身体に白衣をまとう彼は、数週間前に 転属された医師だが、既に貴族たちに信頼を寄せられている。 それは診察や治療の丁寧さだけでなく、田岡の衰えないイケメン度が 貴族女性たちの人気になっていたりもした。 首に包帯を巻かれてベッドに寝ていた星彦は、ふらつきながらも 上半身を起こし、受け取った小瓶を見る。 白い錠剤が入っているのは確認できた。 「それはね、地球で買った物だ」 田岡が椅子に座り、同じく地球で買った万年筆でカルテを 書き込んでいく。 「地球?天の川の下あたりにある惑星ですよね。 あそこは文明が未発達で、我々は渡航禁止でしょ?」 「生態系としては似てるから、入り込んでもバレないよ。 それに『なるべくなら渡航禁止、地球人を刺激してはいけない』 医療関係での薬の買い付けくらいはできるんだ。 それ以外にも美容液とか、ご婦人方に差し上げると好評でね」 「とはいえ、なるべくしてはいけないんでしょ」 「君は本当に真面目だなあ、よく効くから飲みなさい」 「地球って、どんな星ですか?」 「ゴチャゴチャしてるよ」 「そういうところは苦手かなあ」 「僕は気に入ってるんだ、ほら、これが地球の日本というところ」 田岡が「地球のいつものやつ」と、言うと、診察所に置かれた浮遊鏡が スポーツの試合中継を映し出した。 「へえ、こんなことしてるんだ?あ、言葉がわかる。 でも、文字は......読めたり、読めなかったり」 「我々は日本と言語が同じなんだよ。 とはいえ生活習慣が異なるから、単語の並びも違っていたりする」 星彦は、さほど興味は湧かなかった。
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