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そこまで厳しく幽閉されている姫織は軟禁状態でもある。
金色の籠は部屋が上下に分かれていて、2階は自室としては
貴族社会に生まれた姫織が生活するに相応しい、家具や調度品が
取り揃えられている。
支給されるドレスも含めて、すべてが上質な作りの高級素材だ。
下の階は芝生付きの庭で、遊び相手として飼われている犬のリリを
散歩させたり走らせたり、それが運動の代わりになっている。
ちなみにリリは雌犬であり、籠に出入りするのも女性のみ。
もちろん女性でも姫織に好意を持つ者もいるので、侍女は厳しい
審査によって選ばれていた。
「リリ、お風呂の時間よ」
姫織の声にリリが下の庭から、器用に階段を駆けて上に来た。
「リリ、あなた、あたしを乗せて走って逃げてくれない?」
バスルームで大型犬のリリの白い毛並みを洗いながら言ってみる。
リリは『くうぅん』と、唸るだけだった。
湯舟は淡い桃色に染まっている。
貴族だけが使用できる特別な入浴剤で、日によって色も変わる。
姫織は桃色の泡と湯の中で、透明な悲しみの涙を流した。
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