天の川にて

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人前に姿も声も出さない王だが、その権限は絶対的である。 姫織の悲しみとは裏腹に天の川での闘いは定められた。 貴族の住む世界と街を挟んで天の川が流れている。 およそ20メートルほどの幅の川で向かい合い、南の国に住む者たちと 北の国に住む者たち。 それぞれが分かれて光の矢を投げ合うというものだ。 戦士が念じると光の矢が手の平の中で出現する。 戦士は矢を天の川へ向けて投げていく。 天の川を超える矢を、戦士たちは避けながら投げていくが、身体の 一部には当たってしまう。 素材が光なので刺さっても害はないのだが、胸に当たれば失格となり 消え失せる。 これも死ぬわけではなくて元の国へと自動的に転移される仕組みだ。 しかし敗者復活が認められているので、天の川に戻れば参戦できる。 これには身分に関係なく参戦できるので、貴族も街も町も村も合わせて 多くの者が集うこととなった。 こうして大半の男たち、その中に混じる女たち、最初は数万人は 集まっていたが、10年のあいだで数千人に減った。 あきらめた者たちが大半だったが、それでも数千人から減ることが 無いまま、矢は投げられ続けている。 『光の矢の投げ合いの最後の1人が姫織を妻にできる』 姫織の種族は長命であり、成人してから年寄りになるまでには 何万かの時期がある。 姫織は美しさを保ったまま、あと幾年かかるかわからない闘いの中で 自身の運命を憂鬱に感じていた。 昨日も今日も明日も変わらない。 戦士として支給される鎧と兜を身に纏う者たちの顔は、姫織には 見えない。 「どうして、私から選ぶことはできないのかしら...... 王様は残酷だわ」 それを思う度に、姫織は大きな瞳に涙をあふれさせてしまう。
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