貴族界にて

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「あっ、精霊さんたち、お疲れ様です」 星彦の声に反応して、精霊たち数人が軽く会釈した。 天の川で戦う戦士たちへと食料と水を運んでいたのだ。 西の門の向こうに天の川が流れ、その一部の箇所が戦場になっている。 天の川の先に『街』があるので、街や他国から貴族界に行く場合は 安全が確保されている橋を使用していた。 この国は街の先が『町』で、その先が『村』だ。 これらは階級の違いはあれど貧困や差別は無い。 貴族界は精霊たちの助力で成り立って『街』は賑わっていて『町』は 質素で『村』は山と畑に囲まれている。 それぞれが、それぞれの社会的役割を果たしているのだ。 星彦は、もらった焼き魚10本と握り飯5個を、広場の噴水の端に座って 食し、清らかな噴水の水をコップですくって飲んだ。 貴族としての堅苦しさを押し付けず、星彦を受け入れてくれる。 そんな生活ができるのは、修理士としての称号のおかげであり、それは 王が与えてくれたものだった。 だから星彦は王へと個人的に感謝している。 「どうして姫織様から選べないんだろう? 敗者復活まであったら、どうしたって闘いは終わらない。 どうして王様は、そんなルールにしたんだろう?」 青空へと突きあがる噴水を眺めながら、その気の毒さを思ったりもした。 それでも王に対して意見を述べるような勇気は無い。 それに、ルールに従うしかないのだろう。 姫織に近づけば千年間の牢獄暮らしになる、姫織に会えなくなる。 誰もが、そのほうがもっと嫌な筈だ。 「姫織様も、みんなも、早く解決するといいなあ」 それを小さく望みながら星彦は立ち上がり、午後からの精霊たちの 相手へと向かっていった。 こんな、ささやかな生活が大好きだ。 星彦は永遠の平穏を大きく望んでいた。
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