授業中だって構うものか!

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 五月も暮れ。職員室で盛大なため息を吐いた。 「矢沢先生、そろそろ諦めたらどうですか?」 「嫌です! 絶対に諦めません!」  教頭に問われて私、矢沢みどりは声を張り上げた。 「どうして皆さん、二組のみんなに注意しないんですか? おかしいでしょう!」 「あの子達は、あれでいいんですよ。クラスの雰囲気はいいでしょう?」 「だとしても! あのままだったら、あの子達が将来困ります!」 「まあまあ。長い目でみてあげましょうよ」  また盛大にため息をつく。どうしてみんな、あの子達に甘いのか。事なかれ主義なのか真剣に考えようとしてくれない。 「私一人でやりますから!」  強く言い放って立ち上がる。次の授業の時間だ。イライラする気持ちを抑えて五年二組の教室に向かう。教室に近づくほど、それは大きく聞こえてくる。歌声が。  楽しそうにみんなで歌う声が廊下に響く。そうなのだ。五年二組の子供達は歌うのだ。授業の前や後、なんなら授業中も歌う。とても真面目に授業を受けているとは思えない。それが私の悩みのタネなのだ。 「はいはいやめて!」  パンパンと手を叩いて教卓の前に立つ。それでも歌声は止まらない。その先頭に立っているのが山田ゆうとくんだ。一人だけ立っていて歌いながらタクトを振っている。私の言うことは完全に無視されている。最後まで歌い切ってから教室は静かになる。 「君たちは先生を馬鹿にしているのですか?」  何度も言った台詞。今日も口をついて出た。 「していません! 勉強の気分を盛り上げただけです!」  山田ゆうとくんは悪びれもせずに訴える。 「授業はもう始まっているんですよ? 毎日毎日歌ってばかり! あなたたちは真面目に勉強する気あるんですか?」 「あります!」  全員が声を揃える。これも毎度のこと。はじめて受け持った担任だというのに先が思いやられる。聞いた話によると山田ゆうとくんがいたクラスは今までもこの状態になっていたとか。なぜ、今までの担任は許していたのか? 直さないと生徒のためにならない。 「嘘を言いなさい! 真面目なら真面目な態度というものがあります! 君らにはそれがない!」 「でも……」  どちらかというと内気な佐々木あきらくんが呟く。私はついキッと彼を睨む。 「でも、なんですか? 歌っていたのは事実でしょう? 何が違うんですか?」 「矢沢先生、授業しようよ。私たちは勉強の気分を盛り上げるために歌ってたんだから」  工藤さきさんが訴えてくる。青筋も浮かぶってものだ。 「分かりました。授業を始めます」  イライラが止まらない。どう見ても遊んでいるようにしか見えないのに言うことはいっぱしだ。どこかで線引きをしなければ。こんなの許されるのはここまでだと分からせなければならない。
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