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さらに腹が立つのが、誰に当てても答えに詰まる者がいないのだ。あんな不真面目なのに。歌ったあとの授業はこそこそ話も雑談も仕掛けてこない。勉強の気分を盛り上げるためだというのが正解であると全員で訴えているようだ。だとしても、これから中学や高校、大学、その先の社会に出て歌って気分を盛り上げてから課題に取り組みますなんて許されない。他の先生方は容認しているが、私にそのつもりは徹底的に修正するのが担任である私の役目のはずだ。
黒板に文字を書いていたチョークに込める力が強くなり、ポキっと折れる。私は間違いなく苛ついている。それに対してからかう者もいない。そんなの上辺だけだ。私が教室を出たら笑い者にするのだろう? 分かっている。
イライラしながらも時間いっぱい授業をしてチャイムが鳴る。どうすればいい? どうすればみんなが間違いを犯していると自覚させられる。振り向いて山田ゆうとくんの顔を見たとき、私に悪い考えが浮かんだ。
「皆さん、提案です。来週、水曜にテストをします。そのテストで全員が九十点以上取れたら、私は歌うことを認めます。ただ一人でもそれに届かなかったら歌うのをやめてもらいます。これは先生と皆さんの勝負です。よろしいですか?」
教室は静まり返るだろうと思っていたら、山田ゆうとくんが間髪入れずに答えてくる。
「OKです。負けません」
かかった。私はみんなが知らない箇所をテストに出すつもりだ。五年生の勉強ができたところでみんなに答えられることはできないだろう。これはみんなのためだ。安請け合いしたことを後悔させてあげるから。
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