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本屋で碧が雑誌を眺めていた時、見慣れた顔を見つけて手が止まる。
凪沙が写っていたからだ。
モデルをしているというのは事実らしい。
確かにたまに学校に来ない事もあるし、仕事はきっちりやっていたようだ。
「写真より、本人の方が綺麗だな…。」
「…聞こえてるわよ?」
振り向いて、碧は驚く。
まさかのご本人様登場だったからだ。
「瑞原先輩…そろそろ俺のストーカーしてます?」
凪沙の顔が赤面する。
「おバカッ、そんなわけないじゃないっ!自惚れ屋さんなの!?偶然よ!!」
「あはは、そうですよね。でもきちんとモデルをやってるとは思いませんでした。」
「意外だとでも言いたいの?」
「…いえ、やっぱり瑞原先輩は改めて凄い人なんだなって…。」
何気なく言ったつもりだった。
だが目を見開いた凪沙は、目を伏せる。
「…私は、凄いヒトなんかじゃないわよ。」
「どういう事です?」
凪沙がツン、と碧から目をそらしていた。
「…別に。覚えてないなら良いわ。」
凪沙はさっさと歩き出して、どこかにいなくなってしまった。
「…覚えて?」
碧の胸の中は、妙にモヤモヤした。
その日、碧は夢を見た。
溺れている少女を、碧が飛び込んで助けるというもの。
だが結局、幼い碧では少女を助けるには未熟で、大人の力も借りる事になったが。
「お姉ちゃん、大丈夫…?」
水を吐き捨てた少女は、震えながら頷いて、碧を見上げていた。
「碧…ありがとう。大切な物を海に落としちゃって、拾おうとしたら…泳げないのを思い出して…。溺れて、そのまま…。」
「大切なものって…?」
「あ、碧がくれた…キーホルダーよ…。」
「そんなの、言ってくれたらまたあげたのに…。」
「あれがよかったの…。男の子からなにかを貰ったのは、あれが初めてだったから…。」
気恥ずかしそうにそらされる目。
あどけないがその少女を、碧はよく知っていた。
昔、海が近くにある場所に引っ越した時に、出会い、短い間だが交流を持った少女だった。
夏だったから、彼女は親の別荘に遊びに来ていたのだ。
一個上でいつも高飛車でませていた彼女は、確か瑞原凪沙という名だった。
あの時、交流を持った少女、凪沙の事を、碧は当時幼すぎてすっかり忘れていた。
だが夢を見て、思い出してしまった。
その時に抱いていた淡い感情さえ、今の碧の気持ちに重なってしまっていた。
「あの時のお姉ちゃんは…瑞原先輩だったんですね。」
どうして今まで忘れていたのだろう。
一度思い出してしまったら、これだけ胸が痛むと言うのに。
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