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「今日の紺野はずいぶん静かね。どうかした?」
不思議そうに聞いてくる凪沙から、碧は目をそらす。
恥ずかしくて目を合わせられそうにない。
凪沙が不満そうな顔になった事を、碧は知らなかった。
「…実は、夢を見たんです。海で溺れた少女を助ける夢を。」
凪沙が目を見開いていた。
「…それで?」
「その時助けた子は、昔に短い間だけど、俺とよく遊んでくれた子で…。」
碧は凪沙を見ていた。
「それで思い出したんです。
あの時の子は、瑞原先輩だったんだって。」
今さら思い出したのだ。
碧は凪沙に怒られるかと思った。今さら遅い。ふざけるな、となじられるかと思った。
だが、実際は違った。
凪沙は涙目で、ただ穏やかに微笑んだ。
「…遅いわよ、おバカ。海で再会した時は本当に驚いたんだから。」
「ごめんなさい。」
「久しぶりって言おうとしたのに、お間抜けな碧は私を忘れていて、悲しかったわ。」
「申し訳無さすぎて、何も言えません…。」
「でも、許してあげる。碧が私を思い出したから。」
名を呼ばれ、碧は目を瞬かせていた。
「先輩、今、名前で…。」
「な、なによ、私が碧って呼ぶ事に、何か文句があるというの?」
「いえ!むしろ嬉しいです!俺も凪沙先輩って呼んでも良いですか?」
凪沙の顔が真っ赤に染まる。
「…仕方ないわね。特別よ。」
「凪沙先輩。」
「…なによ?」
「呼んだだけです。」
「ふぅん。そ、そう…っ」
碧はどうしようもないほど、凪沙の顔が見られなかった。
今までどんな風に話していたのかさえ、思い出せそうにない。
碧は自分の中でも隠しきれないほど、凪沙への気持ちが大きくなっていたのだ。
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