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大切で、好きだと気づいてしまった。
昔から抱いていた淡い感情と今の碧の感情ががんじがらめになっていた。
それから、どんな風に接したら良いのかわからず、碧と凪沙の距離は前よりもぎこちなくなっていた。
碧が話しかけようとしたら、凪沙が理由をつけてどこかに消え、その逆もまたしかり。
言葉を交わしても弾まない。気まずい空気だけが流れていく。
そんな数ヶ月が過ぎていった。
ある日、クラスメイトと帰ろうとした時、碧を待ち構えていた凪沙と遭遇していた。
「…碧。今、少しだけ良いかしら?」
凪沙は思い詰めたように、何か言いたげに、碧を見ていた。
「凪沙先輩…。」
「なんだよ、紺野。瑞原先輩と付き合ってんのか?」
「そんなわけないだろ!…先輩、すみません。用があるので、話ならまた今度でも良いですか?」
モデルとして活躍する凪沙。
大切な時期だろうし、自分なんかと付き合ってるだのそういった噂を流したくなくて、碧は言っていた。
本音を言えば自分の気持ちが、凪沙やクラスメイトにバレるのではないかとも思ったのだ。
凪沙はぎこちない笑みを浮かべていた。
「…そうよね。また今度にするわ。」
凪沙がどこかに消えていた。
どうしてか引っ掛かる凪沙の態度。
だが、一度拒否したのは碧だ。
それを引き留める権利などなかった。
「お兄ちゃん、おひさ~」
夏休み前のある日、碧の家に遊びに来たのは妹の水樹だった。妹は一つ下の中学三年生だ。
「よお、どうだ?俺の城は。」
「ぼろっちくて無いわ~。」
「おい、住めば都だぞ!?」
妹と共に近所を歩いていた碧。
それを遠くから見ている者がいる事には、気づかなかった。
「まあ、どうでも良いけど、お兄ちゃん、好きな人とかいないの?」
「えっ…!?」
固まる碧を水樹がニヤニヤと見てくる。
「これは図星かな?しかも重症ですな?」
「うるっせぇ!お、俺の事は良いだろっ」
話を変えるように水樹に目を向けて、碧は眉を潜める。
「そ、それより水樹、顔に睫毛ついてるぞ?」
「え?どこ?取ってよ。」
「どこって…おい、動くな。」
顔を覗き込み、妹の頬についた睫毛を取る。
「取れた?」
「ああ。大丈夫だ。」
碧が離れた時、なにやら駆ける音が聞こえた。
目を向けた時、そこには何者の姿もなかった。
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