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最初は新聞か勧誘かと思ったが、しつこく連打される事しばらく。
「どちら様で…」
開けた直後、碧は固まる。
そこにいたのは、他でもない凪沙だった。相変わらず彼女は綺麗だった。
凪沙はなぜか碧を不満そうに見ていた。
碧は夢かと思ったし、思わず二度見した。
「…凪沙先輩。帰ってきてたんですね。」
「久しぶり。相変わらず、君も変わらないわね。」
「お久しぶりです。あ、ボロアパートでよければどうぞ…?」
「そう。それじゃあ遠慮なく。」
凪沙は少しだけ偉そうにズカズカと入っていった。
「…彼女は、居なそうね。どう見ても、男の一人暮らしって感じ。住んでる気配もなさそう。」
周囲を見渡しながら呟く凪沙。
「彼女?いるわけないじゃないですか。」
碧は思わず即答していた。
「え?いたじゃない。私が留学する前に、女とキスなんか…しちゃって…!
それで私、留学するかずっと迷ってたけど、留学するって決めたのよ!?」
はっきり言って、碧は今まで彼女がいた覚えは一度もない。
家を出入りする女性も母か妹の二択だ。
数年前の記憶なのでうろ覚えだったが、凪沙の留学前は、妹を家に呼んだ記憶しかなかった。
そして覚えている限りだと、妹の顔についた睫毛を取った記憶が片隅にある。
それをまさか、角度でキスをしていると思い込んだのだろうか。
「いや、あれ妹ですよ?」
「は!?妹と…!?破廉恥!!」
「違います!!俺の話を聞いてください!」
誤解を招いたままなのは気持ちが悪かった。
碧は丁寧に凪沙に全てを話していた。
凪沙は思わず脱力していた。
「そ、それじゃあ私、馬鹿みたいじゃない?誤解して勝手に留学して…。
でも、そう…違ったのね…良かった…。」
心底安堵したように淡い微笑みを漏らす凪沙は、恐ろしく可愛かった。
「…どうして何も言わずに留学したのか、気になってましたけど、安心しました。
俺もあの時先輩を避けていて、ごめんなさい。」
「…そ、それは良いのよ。お互い様だから。
…私も、ごめんなさい。」
互いに謝り合って、思わず笑みを溢していた。
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