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繰り返される日常
──もう何度目? これを何度見せられるの?──
動くことも出来ず、何度も何度も同じものを見せられる。それも平凡な日常。霹靂とする。
また『呪いの家』にみんなで行くか行かないかその場面になる。もう日常なんてたくさんだ。そんなの何度も何度も見せられたくない。おかしくなりそうだとカナは頭を抱えた。
スクリーンの主人公が背中を向けたまま仲間を説得し始める。
「やっぱり私、行かない! だって何かあったらどうするよの。行ったら絶対なんかある──だから行かない方がいいでしょ? 帰ろうよ……ねぇ。普通の日常がいいでしょう? ねぇ……帰ろうよ。わざわざそんな場所に……ねぇ。行かない方がいいよ……ねぇ……ねぇ……それでも行くの? ねぇ……ねぇ……帰ろう? またあの日常……見たいでしょ……? また見たいよね? 見るよね? 見るよね? 見るよね──?」
だんだんトーンが上がっていく。何かおかしい。
「何? 台詞が変わってる? 見たくない見たくない見たくない見たくない……これ、なんなの! まるで私に言ってるみたいじゃ──!」
カナは両耳を押さえ必死に叫ぶ。何もかもがおかしい。
何か耳元で囁かれた気がする。カナの頭の中で誰かの声が響いた。
『ジャア、アナタ モ イク?』
「私も行く──。もうやだっ──。私も行く──。もうやだっ──。もうやだっ──」
半狂乱でカナが叫んだ。
──もうこんな平凡な日常を見せられるのはたまらない。早く家に帰りたい。行けばこの日常から抜け出せるかも知れない……えっ? 本当に行けば……抜けられる!? ここから抜けられるの!? ──
一瞬正気に戻ったカナは目をあらんばかりに見開いた。スクリーンの中の登場人物たちがピタリと動きを止めている。何やら厭らしい笑みを浮かべスクリーンを通してカナを見つめている気がした。そして……台詞が流れ始めた。
「へぇ、そうなんだ」
「あれ? 行かないんじゃないの?」
「私だったら行かないって言ってたよね?」
スクリーンの登場人物の台詞が変わっていく。声もなんだか違う。
「──えっ!?」
カナの鼓動がピッチをあげる。まともじゃない早さだ。
ゆっくりとスクリーンの主人公が振り向き始める。あれは絶対見てはいけない気がした。しかし、目を隠そうとしたが今度は手が動かない。瞼を伏せようとしたが、瞼も動かない。カナの見開いた目はゆっくり振り向いた主人公と目が合った。もう目線も動かせない、顔を背けられない。
「こんな話が好きなんでしょう? だから私の平凡な日常を見せてあげたのに。面白いでしょう?」
「嫌! 別に好きじゃない。そんな話見たくない──もう見たくない」
動くのは口だけだ。
主人公の女の子がニタリと笑う。
「そうなの? あなたが絶対行かないって言うから。そうだと思ったんだけど」
ニタニタと笑う。
「違う。ただ怖いだけだから」
カナは怯えながら反論する。
「ほら、どうするの? 行くの行かないの?」
「いくの?」
「いかないの?」
言葉が連鎖する。他の登場人物もニタリ、ニタリと笑う。
「どうするの? 行くの行かないの?」
『呪われた家』に行こうと言い出した登場人物が語りかけてきた。
「行くよね? きっと面白いよ。みんなが君を待ってる……」
ニタニタ笑う。それが伝染していく。
ニタニタ笑いながら周りの登場人物たちが手招きする。頭の中がグチャクチャに混ざり合うような感覚に落ちるカナ。行かない恐怖より行く恐怖が良く思えてしまった。
「行……く……行くから……」
カナは震えながら答えた。
「そう、じゃあ……おいで」
「えっ!?……何?」
カナの足が導かれるように自然と動き出す。スクリーンに向かって操られるように歩きだす。
「嫌っ──! やっぱり嫌、行きたくない。行きたくないっ──」
カナは泣き叫ぶが足が止まらない。
「ほら、見たいんでしょ? 『呪いの家』に行く続きを……」
「やっとのびのびになった続きが見ることできるよ」
「『呪いの家』楽しみだね。ねぇ、カナ。あなたの恐怖きっとみんな楽しみにしてるよ。あなたの泣き叫ぶ顔に恐怖にひきつる顔を待ってる……」
「なんで? 私の名前……いやっ…いやっ……」
スクリーンから主人公の手がのびてきた。ぬっーとのびた手はカナの腕を掴んだ。ニタニタ笑う主人公。
「やっとあなたが主役よ……ほら、行こう。カナ」
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